日本の政治システムにおいて、官僚と政治家は重要な役割を担ってきました。また現在においても、官僚と政治家は日本の進路を左右するような重要な政治決定にあたっては、主導権をもっている集団であると言えます。
彼らの職務と責任はどこが違うのか。「官僚」と「政治家」のそれぞれについて職務と責任を詳しく分析したうえで両者の違いを論じてみたいと思います。これによって日本の政治システムが今日直面している課題が明らかになると思います。
- 【筆者/やまべみつぐ】について
- 【やまべみつぐ(山辺美嗣)】
通産官僚、国連(ジュネーブ)、独法(ニューヨーク)での勤務を経て、県議に。日本初の地産地消政策や、地方議員としてロシアとの直接交渉などを実現しました。その後、県議会議長に就任。保守三つ巴の熾烈な選挙戦を経験し、他の候補者の選対としても活動しました。現在、政治行政のコンサルタント。議員引退を機に、故郷の雪国から子や孫のいる関東に転居。孫5人。
官僚の役割と特徴
官僚とはどのような人を指すのですか?
現在のわが国の官僚制の起源は、明治初期にさかのぼります。明治23年11月大日本帝国憲法が施行され内閣制度が始まると、明治政府は上級官吏となる「高等官」を任用するための法令を整備しました。高等官を原則として公開試験によって任用し、合格者のみが有利に任用を受ける特権的な制度でした。
戦後、高等官任用の法令は廃止され、国家公務員法が制定されました。国家公務員法そのものには、何等の任用特権が定められていないのですが、試験制度の最上位にある「上級職」(その後「Ⅰ種」をへて現在の「総合職」へと名称が変更された)の合格者は、戦前の高等官と同様に昇進スピードが速く、事実上の特権として引き継がれています。このことをマスコミや政治学者が古い漢語を引用して「官僚制」と呼んだことから「官僚」という慣用語が定着したものです。
つまり、「官僚」は法制度の裏付けのない慣用語であり、非公式な語であると言えます。
官僚と国家公務員の違いは何ですか?
先に国家公務員について説明します。なぜなら官僚は国家公務員であるもののうち高位にあるものを指す慣用語だからです。
「内閣は官吏に関する事務を掌理する」(日本国憲法第73条)とされており、国家公務員は内閣のもとにあります。 国家公務員は、官僚を含む広範な範囲の職員を含み、医療、教育、食の安全など、社会のあらゆる分野に関わっています。
① 職員の任用は、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基づいて行う「能力主義」原則
② 採用は、公開平等の競争試験による「競争主義」原則
③ 職員の昇任は、任命権者が勤務実績に基づく選考により実施する「実績主義」原則
(出所)人事院資料より
3つの原則が示すように、国家公務員は競争社会です。その中でも、官僚はとくに成績をあげ競争に勝ち抜いてきた高位のポジションにある集団だといえます。
官僚は専門知識を活用して法案や予算案の作成、行政の実施などを行い、政策の形成と実行において中心的な役割を果たします。その専門性と経験によって政府の運営に不可欠な存在となっているのです。
このように、官僚は一般の国家公務員よりも、政策決定に事実上大きな影響力を持つことが特徴です。
官僚にはどんな人がなるのですか?
官僚になる人々は、大学院あるいは大学卒の高い学歴を持ち、国家公務員総合職試験(古くは上級職試験、その後はI種試験と称した)を通過した優秀な人材です。彼らは強い使命感を持ち、公共の利益のために働く意欲があります。また、政治、経済、法律、科学技術など、さまざまな分野の専門知識を持つことが求められます。
2023年度の国家公務員採用試験の合格者の状況は次のとおりです。(なお、自衛官の採用試験などは別の制度で行われています。)
総合職試験合格者は、国家公務員試験合格者全体の1割であり、狭き門となっています。
国家公務員試験区分 | 合格者数(人) | 参 考 |
総合職 | 2,400 | 大学院卒700人、大卒1,700人 |
一般職 | 11,700 | 大卒8,300人、高卒3,400人 |
専門職 | 9,900 | 国税専門官、労働基準監督官、海上保安官、刑務官など |
合 計 | 24,000 |
政治家の役割と特徴
政治家とはどのような人を指すのですか?
公職選挙法や政治資金規正法では「政治家」の語は出てきません。代わって「候補者、立候補予定者、現に公職にある者」という語が出てきます。これらの法律を所管している総務省が法律の解説に際して、「候補者、立候補予定者、現に公職にある者」を総称して「政治家」という語を使用したことが起源です。
一方、マスコミや学会などでも「政治家」という語を使います。この場合には、総理大臣をはじめ内閣を構成する大臣を指す場合もあれば、国会議員全体を指す場合もあり、また首長や地方議会議員も含めた公職全体を指す場合もあります。必ずしも厳密に定義して使っているわけではないようです。
これらを総合すると、「政治家」は「選挙によって選ばれる公職者」について公式に使用されている語である、といって間違いないでしょう。
政治家は、立法活動を通じて国や地方自治体の方針を決定します。そのため公の場で政策を提案し民の意見を代表して議論に参加します。彼らは民の声を政策に反映させることが求められ、政治的な判断とリーダーシップを発揮する必要があるのです。
また、政治家は行政府の長として法律や予算を執行します。それによって福祉を向上し経済を発展させることが求められるのです。
政治家と官僚の違いは何ですか?
政治家と官僚の違いをまとめてみましょう。
第2「政治家は選挙で選ばれ、官僚は試験と実績で選ばれる」
第3「政治家は政策を決定し、官僚は実務を支える」
政治家は「国民住民を代表して政治的な決定を行うこと」、官僚は「専門集団として政策の実務を支えること」が何よりも彼らの中心的な責務であると言えます。
政治家と官僚は、日本の政治システムにおいて相互に補完し合う重要な役割を果たしています。政治家の民主的な責任と官僚の専門性は、バランス良く機能することで効果的な政治の遂行を実現できます。
政治家にはどんな人がなるのですか?
政治家になるには資格は必要ありません。一定年齢以上の日本国民であって住所要件などをクリアすれば、だれでもそれぞれの選挙に立候補する権利があり、志を立てたときから政治家になるのです。
政治家は国家公務員法(あるいは地方公務員法)が適用されない特別職公務員です。したがって、公務員には原則である「能力主義」「実績主義」が政治家には適用されないのです。
それに代わって政治家に適用されるのは公職選挙法であり、4年あるいは6年ごとに選挙で有権者の審判を受けることになります。つまり「競争主義」だけの世界に生きていくのが政治家です。
落選すれば「ダダの人以下」と言われる政治の世界に、ひとはなぜ飛び込もうとするのでしょうか。
立法と行政は三権分立の民主社会をささえる重要な機能です。国とふるさとのために責任ある立場で働くことに、学歴や経歴にかかわりなく挑戦出来る「志の世界」がある。だからこそ政治家になろうとするのだと言えます。
官僚と政治家|日本の政治システムの課題
官僚と政治家の力関係はどうなっているのですか?
官僚と政治家の力関係は複雑であり、状況によって異なります。
理論的には、政治家が政策の決定権を持ち、官僚はそれを実行する立場にあるため、政治家が上位の立場にあると言えるでしょう。しかし、実際には官僚が専門知識を持っているため政策形成において重要な役割を果たすことが多く、政治家は官僚の力を借りてはじめてよい政策を形成することができるのです。
もっと具体的に説明しましょう。官僚は行政府の各省庁に所属しています。一方各省庁には内閣を構成する大臣が最高責任者となっています。やまさんが大臣、がんばる君が官僚になっていただいて、どのようにに政策が決まるかを再現します。
政治家は官僚の言いなりですか?
政治家が官僚の言いなりになることは一般的にはありません。しかし、官僚の専門知識や情報に依存することがあります。ただしこの場合でも政治家は最終的な意思決定者であるため、官僚の提案を受け入れるか否かを決定する権限を持っています。
例えば、近年日本では経済活動を活性化させるため「規制緩和」が進められてきました。しかし、規制緩和はある意味で官僚の権限である「認可」や「許可」を廃止することであるため官僚の強い抵抗があります。また、こうした規制によって一部の業界が「既得権」を持ってきたため「業界や族議員」の反発もあります。このような状況の中で判断し、決定するのが政治家の役割です。
官僚のいいなりとまではいかなくても規制緩和が中途半端に終わっている分野も確かにみうけられ、今も官僚優位の状況が存在します。
停滞している日本経済を活性化するには政治家の強いリーダシップが求められている証左であると言えるでしょう。
官僚政治とは何ですか?
官僚政治とは、官僚が政策決定や政府運営において主導権を握る政治体系を指します。これは、官僚の専門知識と経験が政治家よりも重視される状況を意味します。
あからさまな官僚政治が1980年代に出現しています。日本は第2次オイルショックを乗り越えて経済が極めて順調で、国民は景気に浮かれ、外国からは「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされていました。この時、日米構造協議で米国が求めたのが内需拡大でした。
国内は全く順調であったため、国民から何も要請されていなかった政治家には知恵がありませんでした。米国の要求にこたえる回答は官僚が用意し、法律や予算も整えて実施されたのが「リゾート法」と「民活法」という、前代未聞の全国に予算をバラまく政策でした。この官僚政治がもたらした不良資産によって結果的にバブル経済がはじけ、その後の30年以上にわたる平成のデフレ不況を生み出したことはご承知のとおりです。
歴史を振り返れば官僚政治は良い結果を残していません。一方で政治家主導も選挙目当ての政局運営に終わっていることが多いといえます。官僚と政治家のそれぞれがバランスの取れた役割を果たすことこそ、国民が求める日本の政治システムといえるのではないでしょうか。
第2「政治家は選挙で選ばれ、官僚は試験と実績で選ばれる」
第3「政治家は政策を決定し、官僚は実務を支える」