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日本が豊かになるためには、中小企業こそが自らを大変革して成長の中心にならなくてはなりません。大企業に日本経済を再生する力は無いのです。
何をどうすればよいのか、具体的に次の5つの観点から、順を追って検討してみましょう。
- 豊かになるとは高い付加価値を生み出すことです
- 高い付加価値とは労働生産性が高いことです
- 日本の労働生産性が低い「根本原因」とは
- 日本にユニコーンが生まれていない
- 日本の労働生産性を引き上げるためになすべきこと
少しボリュームのある記事となりますが、是非じっくりと読んでみてください。
この記事は特に中小企業の皆さん、地方議員の皆さんに向けて書きました。
- 【筆者/やまべみつぐ】について
- 【やまべみつぐ(山辺美嗣)】
通産官僚、国連(ジュネーブ)、独法(ニューヨーク)での勤務を経て、県議に。日本初の地産地消政策や、地方議員としてロシアとの直接交渉などを実現しました。その後、県議会議長に就任。保守三つ巴の熾烈な選挙戦を経験し、他の候補者の選対としても活動しました。現在、政治行政のコンサルタント。議員引退を機に、故郷の雪国から子や孫のいる関東に転居。孫5人。
1.豊かになるとは、高い付加価値を生み出すことです
国の豊かさとはGDPで測られるのですが、GDPを理解したうえで、GDPを増やす方法を考えてみましょう。
先ず、GDPとは何か。
GDPは「国内総生産」と呼ばれ、国内で新たに生産された財やサービスの付加価値の合計額を指します。
GDPを計算するには3つの方法があり、「生産面で表すGDP」「所得面で表すGDP」「支出面で表すGDP」と呼ばれるのですが、これら3つの計算結果は等しくなります。
なぜなら価値は、「作られ」「分配され」「消費され」るので、これらの3面は等価なのです。
この3面のGDPを見るとき重要なことは、「豊かさをいかに生産するか」という豊かさの原因に注目するのか、「個人がいかに豊かになるか」という豊かさの配分に注目するのか、いずれを追求するのかを決めることです。
国を豊かにしようとするときには、豊かさの原因に注目し、豊かさを生産する方策を探るのは当然といえます。
2.高い付加価値とは労働生産性が高いことです
豊かさ(すなわちGDP)を生産面から分析してみましょう。
GDP生産面とは、国内総生産(GDP)を生産活動の側面から捉えたもので、国内で生産された付加価値の合計を指します。具体的には、各産業部門がどれだけの付加価値を生み出したかを合計することで算出されます。
この付加価値とは、各産業の売上高から中間投入(原材料費など)を差し引いたネットの金額、すなわち荒利を合計して求めます。
付加価値の生産効率は、当該産業部門に従事する就業者一人当たりの付加価値額で表し、「労働生産性」と呼ばれます。
(1)日本の労働生産性は世界のなかでどんな位置か
下表は日本生産性本部の資料を使って作成していますが、2023年のOECD加盟国の労働生産性を見たものです。これを見ると、日本はOECD加盟国の平均値を26%も下回っています。
順位 / 国名 |
労働生産性 |
1アイルランド 2ノルウェー 3ルクセンブルク 4スイス | |
5米国 |
169,825 |
6ベルギー 7デンマーク 8イタリア 9オーストリア 10オランダ 11フランス 12オーストラリア 13アイスランド | |
14ドイツ | 137,937 |
15スウェーデン 16フィンランド 17スペイン 18英国 19カナダ 20イスラエル | |
21チェコ 22スロベニア 23トルコ 24ポーランド 25ポルトガル 26リトアニア 27韓国 28エストニア 29ニュージーランド 30ハンガリー 31スロバキア | |
32日本 | 92,663 |
33ラトビア 34ギリシア 35チリ 36コスタリカ 37メキシコ 38コロンビア | |
OECD38か国平均 | 125,003 |
日本の労働生産性はかなり下位であり、深刻な状況であることが分かります。
この表の数値は購買力平価米ドルですが名目値の円で表してみますと、2023年の1人当たり労働生産性は日本が877万円であり、米国は1,608万円で日本の1.8倍、ドイツは1,285万円で日本の1.5倍にもなります。
(2)産業部門によって労働生産性はどれほど違うのか
2023年の日本の産業部門別に見た1人当たり労働生産性(名目GDP)は次のとおりです。
産業別1人当たり労働生産性 2023年
産業部門 | 労働生産性 (万円) |
GDP (兆円) |
シェア (%) |
|
1 | 不動産業 | 5,168 | 64.9 | 11.0 |
2 | 電気・ガス・水道・廃棄物処理 | 2,720 | 15.8 | 2.7 |
3 | 金融・保険業 | 1,850 | 28.7 | 4.9 |
4 | 公務 | 1,428 | 29.3 | 5.0 |
5 | 情報通信業 | 1,177 | 27.7 | 4.7 |
6 | 製造業 | 1,161 | 121.8 | 20.7 |
7 | 教育 | 939 | 19.8 | 3.4 |
8 | 全産業 | 858 | 587.8 | 100 |
9 | 卸売・小売業 | 801 | 81.4 | 13.8 |
10 | 運輸・郵便業 | 738 | 28.2 | 4.8 |
11 | 建設業 | 677 | 31.2 | 5.3 |
12 | 専門・科学技術・業務支援サービス業 | 665 | 52.3 | 8.9 |
13 | 保健衛生・社会事業 | 507 | 46.7 | 7.9 |
14 | その他サービス業 | 366 | 22.1 | 3.8 |
15 | 宿泊・飲食サービス業 | 293 | 11.7 | 2.0 |
16 | 農林水産業 | 235 | 5.5 | 0.9 |
(出所)内閣府「国民経済計算」より
【注記】
不動産業の生産性は異常に高い数値となるが、これは「持ち家の帰属家賃」がGDPに計上されるためである。実際には家賃の受払のない自己所有住宅(持ち家)についても、統計上では賃貸住宅のようなサービスが生産され消費されたものとみなし、それを市場価格で評価した家賃をGDPに加えている。統計処理としては正しいのだが、厳密には不動産業の生産性とは言えない。
産業ごとに労働生産性は随分と違っています。
日本における産業別の労働生産性を概観したときに言えるのは、上位では大企業が市場を占有している業種が多く、下位に行くにしたがって中小零細企業の割合が高い業種となっています。
例えば2位にいる電気ガス水道は公営事業であり、法定価格に守られた大規模事業者です。3位の金融保険業にしても法律により厳しい業務監督を受けて、競争にも制限がある許認可の業種であり大企業です。アメリカの労働生産性を上回っているのは、日本ではこの2業種だけです。
一方下位に目を移すと、15位宿泊飲食、16位の農林水産のように、市場支配力のない零細な中小企業が大部分を占めているのです。
(3)日、米、独の産業構造の違い
日本の労働生産性が米国やドイツに劣るのは、労働生産性の低い産業分野の比率が大きいと言った「産業構造」の違いに原因があるのでしょうか。
次の表は3、日米独、3国の産業構造の比較です。
産業区分/ GDP構成比(%) | 日 | 米 | 独 |
第1次産業(農林水産業) | 1.1 | 0.8 | 0.9 |
第2次産業(鉱業、製造、建設、電力) | 28.5 | 18.9 | 30.5 |
第3次産業 A(卸、小売、運輸) | 16.7 | 14.4 | 11.6 |
第3次産業 B(飲食、宿泊) | 10.2 | 10.4 | 9.0 |
第3次産業 C(情報、金融、不動産、その他サービス) | 43.5 | 55.5 | 48.0 |
(出典) 国連データ等(2018)
この表を見ると、日米独3か国は産業構造上、各々特徴はありますが極端な差はありません。
3国とも第3次産業Cに分類される「サービス産業化」が進展しており、特に米国は5割を超えています。一方日独は第2次産業が健在であり3割を占めています。この2つの産業区分の合計は、日72、米74、独79と3国とも高い数値を示しており、ともに産業構造が高度化していることを示しています。
では一体、何が日米独の労働生産性の大きな違いを生んでいるのでしょうか。
3.日本の労働生産性が低い「根本原因」とは
(1)日本の労働生産性が低いのは、ずっと昔からである
下表を注意深く見ていただくとすぐに気がつくと思います。
日本の労働生産性は50年以上昔からずっと主要先進7か国の中で最下位だったのです。
主要先進7か国の労働生産性:OECD加盟国中の順位
国/年 | 1970 | 1980 | 1990 | 2000 | 2010 | 2018 | 2020 | 2023 |
米国 | 1 | 3 | 2 | 2 | 3 | 3 | 4 | 5 |
イタリア | 8 | 5 | 4 | 4 | 7 | 8 | 7 | 8 |
フランス | 11 | 12 | 8 | 10 | 9 | 11 | 11 | 11 |
ドイツ | 4 | 7 | 5 | 13 | 14 | 12 | 12 | 14 |
英国 | 14 | 19 | 17 | 17 | 18 | 19 | 18 | 18 |
カナダ | 4 | 8 | 10 | 14 | 16 | 18 | 19 | 19 |
日本 | 19 | 21 | 13 | 20 | 21 | 25 | 29 | 32 |
(資料参考)日本生産性本部
1979年に「ジャパンアズNO.1」とユダヤ系社会学者のエズラ・ボーゲル(※)が著書のタイトルにしたのは真っ赤な嘘だったということです。この書籍は日本でベストセラーになり、国民は有頂天になりました。
(※)エズラ・ボーゲル(1930‐2020):1967年にハーバード大学教授就任以降、1972年から東アジア研究所長、日米関係プログラム所長などを歴任。
(2)日本はデジタル革命に乗り遅れた
もう一つ気がついたはずです。
日本の労働生産性は2018年から順位がまっさかさまに転落して、G7の遥か下の順位になっていることです。2023年にはOECD38か国の中で32位という不名誉なランキングです。
2018年以降の世界経済に、新たに競争力の要素として入ってきたのは「デジタル革命」の急速な浸透でした。
日本は、旧東欧諸国のチェコ、スロベニア、ポーランド、リトアニア、エストニア、ハンガリー、スロバキアに抜かれ、ラトビアに並ばれました。また、発展しない古い国と言われてきたスペイン、トルコ、ポルトガルにも追い抜かれているのです。
この背景には世界のデータサイエンス、AI教育で日本の大学が上位に位置していない現実があります。
イギリスの高等教育評価機関であるクアクアレリ・シモンズ社が2025年6月19日に公表した「データサイエンスとAI」分野の大学の世界ランキングは、デジタル革命の推進力を図る指標となります。
第1位は、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)、第2位カーネギー・メロン大学、第3位オックスフォード大学、第4位カリフォルニア大学バークレー校、第5位南洋理工大学(シンガポール)、第6位ハーバード大学、第7位シンガポール国立大学、第8位ETH(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)、第9位エール大学、第10位トロント大学
日本は上位50位〜100位のランクに辛うじて京都大学が1校入っているだけなのです。
(3)日本の労働生産性が低いのは、「日本的経営」のせいか
最近、ネットやマスメディアは時代遅れの古い体質の日本企業をとりあげ、一時は世界を席巻した「日本的経営」が失墜していると批評しています。
高度成長期の「終身雇用、年功序列、企業別組合」が日本的経営の三種の神器として知られてきました。戦後の復興から先進国の仲間入りをするまでは、この三種の神器は確かに機能したのです。
その後バブル経済が崩壊した直後の1995年に経団連は、「人間中心の経営」と「長期的視野に立った経営」の二本柱を日本的経営の理念と定義して、経済再生を図ろうとしました。
しかし実際には、バブルの崩壊以降企業は非正規雇用を増やし、当時20%程度だった非正規雇用者の比率は現在、2倍近くに高まっています。不安定な低賃金労働者が増加して、「人間中心の経営」が揺らぐ結果になりました。
大手企業の経営者はもともと、従業員の家族の生活にも配慮して雇用責任を重く考えてきましたが、昔から臨時工などの非正規社員は雇用の調整役として存在しました。90年代から急増したのは、低賃金で使えて雇用を柔軟に増減できるメリットに、企業が改めて着目したからです。
バブル経済の後遺症である「債務、雇用、設備の3つの過剰」という経営を圧迫する三重苦を解決するため、企業は正社員の採用を絞って非正規社員を増やすとともに、正社員の賃上げを抑えました。また過剰設備を減らし設備投資も必要最小限に圧縮しました。こうして過剰債務の解消を図ったのです。
当面の危機を脱するためにとった合理的な対策でしたが、リーマンショックや東日本大震災などが相次ぎ、円高、高い法人税、労働規制、電力不足などが加わって、経営者は「五重苦」「六重苦」を訴えるようになったのです。ダメ押しは新型コロナウイルスの流行でした。
こんなに後ろ向きな経営体質が長期にわたって続いたのは近代史上初めてのことであり、本来の日本的経営には無かった体質なのです。
個々の企業にとって生き残るための合理的な選択が合成の誤謬となって日本経済はデフレに陥り、失われた三十年となったのです。
「人間中心の経営」と「長期的視野に立った経営」という新しい日本的経営の理念は看板倒れに終わったのでした。
(4)日本的経営は、政府と大企業という内在する要因で腐食した
失われた三十年の間、企業別労働組合は雇用を守るため、経営側に協力して賃上げを長い間控えました。
中小メーカーの労組が多く集まる産別組織の会長であったJAMの安河内賢弘氏は「労働組合がデフレに陥った戦犯だとは思わないが、共犯であることは間違いない。デフレの時代においても、『自分たちの生活は苦しい』という組合の基本的な主張を忘れるべきではなかった」と述べています。
「人間尊重」を旨とした経営者と労働組合が「雇用」を本心から守ろうとしたことは認めますが、実際に守ったのは「うちの会社」でした。
この結果は何だったのでしょうか。大企業の財務内容は強固になりました。
巨大IT企業やAI半導体の巨人が台頭した米国と比べ、相変わらずトヨタ自動車を筆頭とする日本の産業界は対照的だといえます。
4.日本にユニコーン企業が生まれていない
(1)ユニコーン企業は経済の健全さを示す象徴
ユニコーン企業とは、企業価値を金額で表す評価額が10億US$以上と評価される未上場のスタートアップ企業を指し、市場にはユニコーン企業として新たに誕生する企業と、対象から外れる企業が常に存在します。
この用語は2013年にアメリカのベンチャーキャピタリスト、アイリーン・リー氏によって提唱されました。この名称は、ギリシア神話に登場する幻獣ユニコーンが由来で、その存在自体が稀有なものであることから「ユニコーン企業」と呼ばれるようになりました。
世界のユニコーン企業数 国別ランキング2024年
ランク・国名 | ユニコーン 企業数 |
前年比 増減数 |
1米国 | 703 | +37 |
2中国 | 340 | +24 |
3インド | 67 | -1 |
4英国 | 53 | +4 |
5ドイツ | 36 | ±0 |
6フランス(27) 7イスラエル(26) 8カナダ(25) | ||
9ブラジル(18) 10韓国(18) 11シンガポール(17) | ||
12日本 | 9 | +2 |
13メキシコ(8) 14スイス(8) 15オーストラリア(7) |
出典:胡潤(Hurun)研究院
ユニコーン企業は、急成長と革新性を特徴とし、多くの場合、新しい技術やビジネスモデルを持っていることから、経済の健全性を象徴するものといえます。創業時は中小企業なのに短期間で大きな成果をもたらしているため、各業界団体はその手法に関心を持ち、投資家も長期目線でその存在を有望視しています。
世界でユニコーン企業が増加している背景には、テクノロジーの進歩や豊富な投資資金の存在があります。人工知能(AI)やブロックチェーンなどの新技術の登場により、革新的なビジネスモデルの創出が可能になりました。また、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティファンドの資金増加により、スタートアップ企業が大規模な資金調達を行いやすくなっています。
世界のユニコーン企業ランキングTOP10(国)(評価額10億US$)
1 SpaceX (米国) (350) 2 ByteDance (中国)(300) 3 OpenAI (米国)(300) 4Stripe (米国)(70) 5 Shein (シンガポール)(66) 6Databricks (米国)(62) 7Anthropic(米国)(61.5) 8 xAI(米国)(50) 9Revolt(英国)(45) 10Canva (豪)(32)
(出典)CB Insights「The Complete List Of Unicorn Companies」
(2)日本のユニコーン企業
日本は9社のユニコーン企業を有し、12位にランクインしています。高度な技術力と製造業の基盤を活かしつつ、新たな分野でのイノベーションがようやく進みはじめていると言えます。
日本のユニコーン企業と評価額
順位 | 企業名(所在地) | 評価額(10億US$) | 業種 |
1 | Preferred Networks(東京) | 2.0 | AI・ディープラーニング |
1 | スマートニュース(東京) | 2.0 | モバイル・通信 |
3 | SmartHR(東京) | 1.6 | SaaS型人事労務ソフト |
4 | Spiber(山形県鶴岡市) | 1.22 | タンパク質素材開発 |
5 | プレイコ(東京) | 1 | ゲーム |
5 | Opn(東京) | 1 | Fintech |
5 | Go(東京) | 1 | タクシー配車 |
5 | Sakana AI | 1 | AI研究開発 |
(出典)CB Insights「The Complete List Of Unicorn Companies」
日本では若い起業家が少ないことやハイレベルなIT人材を確保するのが難しく、資金面の支援も少ないことから、他国と比べて創業数が伸び悩んでいることは否めません。
円安の影響もあり、国外からの投資も今のところ期待できないという現実があります。
日本政府は「スタートアップ育成5か年計画」を2022年に策定し、2027年までにユニコーン企業を100社程度に増やす目標を掲げています。大企業とスタートアップの連携(オープンイノベーション)を図り、創出に必要な人材・ネットワーク構築を促し、リスク資金の供給を増やすなどの施策を実施するとしています。
しかし、このオープンイノベーション政策も旧態然として「今ある大企業に頼る」保守的な思考から抜け切れていません。政府が政策をどんどんと変貌させ進化させて向こう数年でビジネス環境を大転換できるか、政権のかじ取りが問われているのです。
5.日本の労働生産性を引き上げるためには中小企業を成長の中心に
(1)日本の労働生産性を引き上げるのは中小企業しかない
日本の経済は停滞しており、消費者でもある労働者の所得が減り、現役世代が困窮しています。
ところが大企業は資本や労働力を集中させ効率化を図ることで、モノやサービスを安価に大量に生産する規模の経済を追求し海外へと活動を広げて行きました。また同時に、大企業は金融投資や海外投資により、国内経済が停滞していても利益を出せる主体へと変貌しています。
このような状況は現在のところ大企業にとって都合がよく、利益も資産も右肩上がりで増大しています。しかし、大企業が利益ばかりを追い国内の実質的な付加価値増大を軽視する姿勢をとり続けることは、日本経済全体としての継続性に大きな疑問を投げかけます。
一方、国内に取り残される多くの中小企業は、労働者の7割を雇用しており国内経済を再生するための要だといえます。
人口が減少しAI化や自働化が進む中で、中小企業が大企業と同じように規模の経済を追うだけでは、国内から「仕事=付加価値」が減り経済停滞から抜け出せないことは想像に難くありません。
中小企業に必要なのは、1人当たりの「付加価値=労働者の仕事の価値」を上げて消費者でもある労働者の「収入」を上げることなのです。「付加価値を上げる」とは、つまり労働者の「労働生産性」を向上させることに他なりません。
値付けを向上させるとは、
販売価格つまり「人の仕事」により価値をつけて仕事の高付加価値化を図っていくことに他なりません。
そのための方法を探っていきましょう。
(2)自立人材の活用
日本企業が守りの経営に片寄った原因は、日本人の基層にあるメンタリティーに根差しているのではないかと言われます。
「日本の会社は江戸時代の藩のようなものだ」という経営者がいました。滅私奉公で「お家の大事」を優先する思考様式が、今も基本的に根強く残っていると言うのです。
バブル時代までは、企業一家意識は全社の力を結集するのに役立ち、「日本的経営」はうまく機能しました。ところがゆとりを無くして逆回転が始まると、村社会的な企業風土は閉塞感をもたらしたのです。「忖度」や「KY(空気を読む)」といった言葉に象徴される他律的な思考をする人が、若年層にも少なくない状況になってきました。
だからこそ企業は、他律人材ではなく自立人材を意識的に活用するときです。
同質的な集団からは革新は生まれない、との意識を持って中途採用を積極的に増やす動きも目立ってきました。人材の流動性が高い社会になれば、起業なども活発になるはずです。
問題は経営層の新陳代謝をいかに起こしていくかです。革新的な発想ができる経営者を増やすため、大胆な若返りが欠かせないと言えます。
(3)中小企業が系列下請けから脱却する
中小企業は、日本の全企業数の99%、全就業者数の7割を占めています。
中小企業が経済の主体をなしているのは日本だけの特徴ではありません。米国もドイツも中小企業の数は同じように99%と高きます。
中小企業が大企業から独立している欧米に比べ、日本では大企業と中小企業との間に「系列下請け関係」が長い期間にわたって固定化されてきました。
特定の系列企業グループ(例えば自動車業界など)において、発注元企業が優越的な地位を利用して下請企業に不当な要求をしたり、または下請け構造が多層化することによって下請企業に価格のしわ寄せや労働環境の悪化などが生じ、問題となってきました。
発注元企業には優位性があり、下請企業は発注元企業に対して交渉力が弱く、不利な条件を受け入れざるを得ない場合が多く見られます。また、特定の系列グループ内で取引が固定化され、新規参入が難しく、構造的に下請企業が弱い立場に置かれてきました。
問題は取引条件が不利なことにとどまりません。下請け中小企業は大企業のスペック要求に応えるため、大企業の技術に依存して自社技術の開発を怠ってきました。その結果、大企業が製造拠点を海外に移転するとなると、下請け中小企業は工場ごと大企業についていくか廃業するかの選択を迫られ、結果多くの中小企業は廃業しました。自社技術を持たない中小企業が、国内で新たな系列に受け入れられることは極めて困難だからです。
系列下請けでない自立した中小企業経営をするには、自社技術と自社人材への投資を行うとともに複数の取引先を国内に持ち自立することが重要です。
このことは正当な利益を確保するうえでも、すなわち付加価値を生み出すうえで極めて重要です。
(4)中小企業が自社製品・サービスを海外に輸出する
小さなジャイアントと呼ばれる企業が、日本には多数あります。ある精密部品の製造で飛びぬけた世界シェアを持っている、技術に特化した優良企業を2つ例示します。
日亜化学工業は、かつては徳島の一中小企業に過ぎませんでしたが、30年で売上高を30倍の4000億円に伸ばし世界的LEDメーカーへと成長することができました。こうしたサクセスストーリーを生み出す技術力を日本の中小企業は持っているのです。
東陽理化学研究所は、年商約50億円従業員295人、非鉄金属の加工では国内有数の技術を誇ります。 本社を、金属製品製造のメッカ新潟県燕市に置き、売上高の半分を占める半導体関連部品では、アップル社のPCチタンケースなどを自社技術で提供しています。
大学や研究所発の画期的な発明を、製品化に結び付ける技術力が日本の中小企業の職人たちにはあることを忘れてはなりません。海外にも通用する製品とサービスを提供する力があります。
しかし、中小企業経営者のマインドは個人営業の商店と変わらないと言われます。自分が新しい時代に対応できなくなったら、赤字になっていないうちに廃業するという選択肢を往々にして選びます。それでは会社に蓄積した職人たちの技術やノウハウが無駄になってしまいます。
地場の事業者をよく知っている地方自治体の職員や議員が、
こうした事業承継の形態について戦略的に考えること、また中小企業の海外展開を支援する地方商社を育成するために行動することが強く望まれています。