世間を騒がしている兵庫県議会と兵庫県知事の激しい応酬ですが、世界の常識からみると間違いだらけであることが分かります。
しかし、間違いの原因は県議会でも県知事でもありません。議会も知事も法律に従って行動しているのです。
間違いの原因は、法律を作った国会議員にあります。
そのため、兵庫県民が置き去りにされたまま、議会と知事のデスマッチが繰り広げられているのです。
詳しく解説したいと思います。地方議員はこの間違った法律を正すことにぜひとも力を合わせて取り組む必要があるのではないでしょうか。
日本の地方政府は、大統領制である
政治制度は大別すると、君主制、大統領制、議院内閣制の3つに大別されます。およそ世界の先進国では、名目的な君主制はあったとしても実質は、大統領制か議院内閣制のいずれかを採用しています。
日本の場合は、中央政府は議院内閣制であり地方政府は大統領制です。イギリスやドイツは、中央政府も地方政府も議院内閣制です。アメリカは、中央政府は大統領制ですが、地方政府のうち州政府は大統領制であり、州内の地方自治体は大統領制と議院内閣制のいずれかの形態を選択しています。
大統領制は、行政と議会の権限が独立していて、他方の権限を侵さない制度
大統領制は、三権が完全に分立する制度です。したがって、議会と行政の長とは権限が独立しています。
議会が行政の長に辞職を勧告することや投票で解雇することなど、行政の長の権限をはく奪できる制度は世界を見回してもどこにもありません。また、行政の長が、議会を解散できる制度もないのです。
ところが、日本の地方政府について制度を定めている地方自治法だけが、世界の政治制度から外れたことを法律で定めているのです。
それが今回の兵庫県の事件の原因なのです。
大統領制では、なぜ行政と議会の権限が独立しているのか
大統領制では、行政の長である大統領は、有権者の直接選挙で選ばれます。行政の長は有権者の信任を得ており、辞職を迫ることができるのは有権者だけです。
一方議会の議員も、有権者の直接選挙で選ばれます。議員は有権者の信任を得ており、辞職を迫ることが出来るのは有権者だけです。
ですから、有権者には解雇請求権として「リコール」の権利が与えられており、リコールが無くても4年ごとの選挙で有権者は審判を下すことができる仕組みなのです。
議会が行政の長に対して不信任決議をすることや行政の長が議会を解散することを、大統領制の下で行っているのは日本だけの異常な制度であり、そもそも有権者の権利を無視した悪法であるといえます。
なぜ日本では間違った法律が出来たのか
地方自治法は、1950年に連合国の占領下で制定されました。日本国憲法が1947年に制定され、地方自治については別途法律で定めるとしていたからです。
連合国委員会は、日本が完全に独立を果たす1952年まで、すべての法律の制定に関与し、介入しました。地方自治に関してはアメリカの大統領制とイギリスの議院内閣制の両方を連合国が主張しました。また、独立を果たしていませんでしたが、日本国政府の主張も取り入れられました。
今問題にしている地方自治法第178条は、アメリカの大統領制と、イギリスの議院内閣制に、「行政の長の権限を強くしたい」当時の日本国政府の思惑が混入して出来上がったと考えられます。
- 地方自治法第178条 詳細は右の+をクリックしてご覧ください。
- 1.普通地方公共団体の議会において、当該普通地方公共団体の長の不信任の議決をしたときは、直ちに議長からその旨を当該普通地方公共団体の長に通知しなければならない。この場合においては、普通地方公共団体の長は、その通知を受けた日から十日以内に議会を解散することができる。
2.議会において当該普通地方公共団体の長の不信任の議決をした場合において、前項の期間内に議会を解散しないとき、又はその解散後初めて招集された議会において再び不信任の議決があり、議長から当該普通地方公共団体の長に対しその旨の通知があつたときは、普通地方公共団体の長は、同項の期間が経過した日又は議長から通知があつた日においてその職を失う。
3.前二項の規定による不信任の議決については、議員数の三分の二以上の者が出席し、第1項の場合においてはその四分の三以上の者の、前項の場合においてはその過半数の者の同意がなければならない。
地方自治法にはおかしな点がいくつもあるため、今日まで何度にもわたって改正されてきましたが、第178条はまだ改正されていないのです。
世界の常識だとどうなるのか
世界の常識では、大統領制において行政の長に問題があるときは有権者が解雇請求をする「リコール」が行われます。
リコールは、日本では有権者の3分の1で請求出来て、有権者の住民投票者が過半数に達すれば行政の長の解雇が成立します。世界の平均はもう少し低い比率で請求できますが、日本の制度も世界標準の一定の範囲内にあると考えられます。
今回兵庫県議会は、有権者に呼びかけてリコールを進めようとした気配はまったくありませんでした。それどころか議会は全会一致で、不信任案を採決しています。
また世界の常識では、議会に問題があるときは有権者は議会の解散を求めるリコールを請求します。その際、議会は自主解散を議決するか、住民投票により解散について有権者の判断を求めるかを選択できる制度が多いようです。
「知事の辞職か県議会の解散か」当事者がデスマッチを選択することは、大統領制のもとでは世界のどこにもない仕組みであり、本来有権者がこの権利を持っているものなのです。
どう改正すれば良いのか
結論から言うと、「大統領制」か「議員内閣制」か、いずれかをはっきりした形で決めて、地方自治法を大改正することだと思います。
別の言い方をすれば、日本の地方自治は「アメリカを手本にするか」「ヨーロッパを手本にするか」どちらを選択するかの議論を巻き起こして、国民が改めて決めることが重要ではないでしょうか。
憲法が「地方自治の本旨」と言う抽象語で逃げてきた地方自治の形を、国民の議論と選択により地方自治法を改正して作り上げることは、自主憲法をつくる第一歩ともいえるのではないでしょうか。