2024年中に政権交代が起こるのか話題になっています。政権交代には、内閣総辞職にいたるいくつかのケースがありますが、現状ではそのうちのどれかが発生するのでしょうか。さらに2025年以降についても展望しています。
政権交代は国民の不満と与野党の組織力が反映されると言われますが、それに加えて危機に直面する日本をどう運営するのかという根本的な課題への対応についても探ります。
- 【筆者/やまべみつぐ】について
- 【やまべみつぐ(山辺美嗣)】
通産官僚、国連(ジュネーブ)、独法(ニューヨーク)での勤務を経て、県議に。日本初の地産地消政策や、地方議員としてロシアとの直接交渉などを実現しました。その後、県議会議長に就任。保守三つ巴の熾烈な選挙戦を経験し、他の候補者の選対としても活動しました。現在、政治行政のコンサルタント。議員引退を機に、故郷の雪国から子や孫のいる関東に転居。孫5人。
自民党からの政権交代はいつ?2024年の可能性
衆議院議事堂廊下
政権交代はどうすれば起こるのか
政権交代とは、内閣総理大臣に現職とは別政党の国会議員が新たに就任して内閣を組織することを言います。したがって、同じ政党で内閣総理大臣が交代しても「政権交代」とは呼んでいません。
次の場合に内閣は総辞職することが憲法および内閣法に定められており、総辞職の後に国会で内閣総理大臣の指名(首班指名と呼ぶ)が行われます。
- 衆議院で内閣不信任決議案が可決(または信任決議案が否決)された場合
- 衆議院議員の総選挙後初めて国会の召集があった場合
- 内閣総理大臣が欠けた場合
- 内閣総理大臣が辞意を表明した場合
2024年中にこの4つのケースが起きる可能性はあるのでしょうか。
それぞれの場合を詳細に見てい行きましょう。
内閣不信任決議案が可決される場合の理由
自民党政権で内閣不信任決議案が可決されることは極めて希なことです。直近では2022年に岸田内閣の不信任決議案が上程された際には、賛成( 立憲民主党、日本共産党)、反対( 自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党)で否決されています。
しかし過去においては、内閣不信任決議案が可決された事例がありました。
1980年5月、自民党反主流派が本会議を欠席して造反し、野党提出の内閣不信任決議案が可決されました。その場合憲法第69条によれば「内閣は10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」ことが決まっているため、時の大平政権は衆議院を解散して総選挙に打って出ました。反主流派はまさか解散するとは思っておらず、内閣総辞職により大平退陣となるだろうとの目論見だったのですが、見事に外されたのでした。また、大平総理は総選挙中に急逝したため、「弔い選挙」の同情票もあって自民党が大勝し自民党主流派の政権が維持されました。
衆議院で過半数を制しているからこそ政権が成立しているのですから、政権内部の造反が無い限り内閣不信任決議案が可決されることは普通はあり得ないのです。
2024年において自民党の反岸田派が造反する動きはない模様ですから、野党が内閣不信任決議案を出しても可決することは無いと思われています。
政権交代の選挙はいつなのか
前回の衆議院総選挙は2021年10月でしたので、衆議院議員の任期満了は2025年10月となります。
自民党が政権に復帰した2012年12月の衆議院総選挙を含めて現在までの約12年間に4回の衆議院総選挙がありました。割り算してその間隔が平均3年となっていることが、本年後半に解散総選挙があってもおかしくないという声の根拠になっています。
いずれにしろ、これから1年余りの間に衆議院総選挙があることは確定しており、自民党としては支持率が上昇して少しでも有利なタイミングとなったときに選挙に臨みたいと考えているようです。本年中は衆議院総選挙の可能性は低いと見られています。
自民党総裁選は2024年9月
内閣総理大臣が「欠けた場合」に内閣は総辞職することが決まっています。死亡や落選などで資格が無くなることを欠けると表現します。
岸田総理の場合にあてはめると、今年9月の自民党総裁選で再選されないと「事実上」資格を失います。なぜなら自民党ではこれまで、1つの例外(※)を除いて自民党主体の連立では「自民党総裁」が総理大臣になっているからです。
岸田総理は自民党総裁再選に向けて着実に手を打ってきています。自民派閥の裏金問題に対して「派閥解散」の方針を掲げて、自らの宏池会はもとより清和会や志帥会が解散しました。「政策活動費」をめぐっても政治資金規正法改正に対処しています。外交面でも、米韓印豪や英独仏とも連携して中国と北朝鮮に対抗する安全保障政策を強化しています。また、景気対策として「定額減税」も実施しました。
現在のところ自民党総裁選をめぐっては、過去において総裁に立候補したことがある石破氏や高市氏、林氏、元総理の麻生氏や菅氏に注目すべきでしょうが、出馬に向けた動きは無い状況です。
岸田総裁再選は手堅い模様です。
総理大臣の任期と辞意表明
内閣総理大臣には任期が決まっていない一方で、辞意を表明した場合には総理大臣臨時代理が任命されて内閣を総辞職することが内閣法で決められています。1994年の羽田政権は辞意表明による退陣でしたが、その後にも2008年に福田政権が辞意表明によって退陣しています。
岸田総理が辞意を漏らしたことはこれまでのところ全くありません。今後についても、6月のG7首脳会議のあとは、7月の東京都知事選挙において自民が支援する小池候補の応援、8月の外遊を経て9月の自民党総裁選に臨む流れであり、辞意表明をするような事態は想定されていません。
自民党からの政権交代はいつ?2025以降の展望
衆議院議事堂正面入口階段
政権交代はなぜ起こったのか
1947年に現在の日本国憲法が成立し、政党の枠組みが固まった1955年以降において、首相の所属政党が変更になる政権交代は1993年、1994年、1996年、2009年、2012年の計5回起きています。
自民党政権が衆議院総選挙において過半数を割り政権を渡しての下野は、1993年と2009年の2つのケースになります。この時の状況を分析します。
一方、他の3つは非自民連立政権から自民党が政権を奪還したケースになります。特に2009年に下野した際は、今後20年は政権を取り返すことは出来ないだろうと言われていたなかで、わずか3年後に自民が政権復帰したケースであり、2012年の政権交代に分析を加えたいと思います。
1993年に政権交代した理由とは
55年体制になってから38年間も継続した「自民党単独政権」が崩壊したのが1993年の政権交代であり、それ以降今日まで31年に亘り「連立政権」の時代が続いています。
つまり、1993年は日本の政治史、政党史において「分水嶺」となった年と言えます。
この政権交代は次のようにまとめることができます。
◆リクルート事件や東京佐川急便事件など政治賄賂スキャンダルによって、自民党に対する信頼が失墜したこと
◆自民党を割って出た新生党や、日本新党、新党さきがけといった新らしい政党と、日本社会党が合流して野党連合を形成したこと
2009年の政権交代は何があった
◆リーマンショックの影響で自動車の対米輸出が不振になるなど、大きく景気が落ち込んだことに政府への不満が高まっていたこと
◆自民党が支援組織である全国郵便局長会を切りすてる一方で、民主党が連合と一体化したことにより組織力が逆転したこと
1993年と2009年の事例を見て分かるように、政権交代は以下の2つのことが重なって起きているのです。
- 国民の与党への不満
- 与野党の組織力の逆転
特に小泉政権の「郵政解散総選挙」によって自民が支援組織を切捨てたことにより、一時的に国民の人気は得たけれど組織力を大きく削がれた事は取り返しのつかない痛手でした。
2012年の政権交代には理由があった
政権交代があった2009年当時は、批判する野党がすごく好まれていました。総選挙直前であった2008年~2009年前半の民主党は、徹底的な政権批判をして「政治の刷新」を掲げ、国民の支持を集めたのです。その野党を、当時の有権者はそれがあるべき姿だと考えていたわけです。
ところが政権交代してみると、国民の関心は政権の政策実現能力に向けられていきます。寄せ集め政権では、重点政策も絞り切れず政権運営能力も不足しているため効果的な政策が形成できなかったのです。
この間に、新しい衆議院選挙制度である小選挙区比例代表制度の下で、自民と公明は選挙協力と政策協定を確立して新しい連立基盤の形成に成功し、3年で政権を奪還したのです。これが2012年の政権交代の理由です。
現在の野党はかつてとは全く違う、維新の会や国民民主党がやっているような、「是々非々」というアプローチが今までなかった路線となってきました。閣外協力により予算の賛成も含めて、与党に対して「反対するところは反対する」けれども基本的には賛成するというスタンスです。この動きは政党に限らず、連合もその方向を模索しているように見えます。
是々非々路線のこれからは未知数ですが、有権者の考えも「反対野党ではダメ」という方向に流れていることは、維新、国民民主、参政などリベラルより少し保守系の政党に対して支持が伸びていることで分かります。
こうした野党が「是々非々路線」で与党に対して政策の修正を促していくことを、有権者は求めているのではないかと世間で言われ始めています。しかし是々非々路線の政党が「連立の組みなおしを通して」「政権交代になる」までには時間が必要と思われます。
今回の東京都知事選挙でも、国民民主は「共産党が支援するなら蓮舫陣営には参加しない」と言い切りました。与党を倒すためなら「多少の政策の違いには目をつぶって一緒にやっていく」ということはもうしないようです。政策の一致がないと互いに協力しないのですから、自民と公明が行ってきたように新たな連立には政策一致を築くまでの時間が必要とみられます。
自民党からの政権交代はいつ?危機に直面する日本
参議院本会議場
日本の危機
政権交代の判断基準が、「どの政党が政権を担うのか」から、「どの政策を実現実行するのか」に移ってきているように思えます。
なぜなら日本が直面する危機は厳しいことを国民が認識しているからではないでしょうか。
安全保障政策、生産性の向上と経済成長、少子高齢化対策の3点について視点を整理します。
安全保障政策
安全保障政策は「領土を守り」「国民の命を守り」「施政権を確保する」ための基本中の基本となる政策です。
第2次大戦の敗戦後、未だに日露間には平和条約が結ばれておらず、北方領土問題が残されています。また、平和条約を締結して領土問題は存在しないはずの韓国や中国が、一方的に竹島や尖閣諸島の領有を主張している問題もあります。また、核開発をめぐる北朝鮮の緊張もあり、中東でのアラブとイスラエルの紛争も再燃しています。
こうした課題に対処する安全保障政策について、国民は決して油断していません。危機はすぐ隣にあると認識していおり、リベラルな政策に頼ることはしないでしょう。
政権の選択は、日本国民の生存の問題に直結すると国民は認識しているように思えます。
生産性が向上せず経済成長率のランキングが低迷
直近の極端な円安の進行により、日本の「円安貧困」が話題になっていますが、安直に「円安対策」を進めたりしないよう、政策の選択を誤らないようにしたいものです。
なぜなら円安という為替レートの変動は、通貨の交換率ですから「結果」にすぎません。日本が貧困になっているのは、円安だからではなく「日本が成長していない」からであり、求められているのは経済成長政策です。
日本はかなり以前から「輸出力が衰退しており」「人口が減少する一方の内需に経済が依存している」ため、構造的に成長できなくなっています。
経済成長政策とは「海外で競争できる製品とサービスを生産する」輸出政策と、「日本人の労働を生産性の高い分野にシフトして人口不足をカバーする」人材活性化政策のことを指します。
これらの政策を、中小企業政策にも地方経済の活性化にも、農業にも水産業にも打ち出して、実行できる政権が現れることを国民は望んでいると思います。
少子高齢化の対策が無い
若い親世代の職場環境はかつて無いほど過酷なものになっています。賃金水準、労働時間、通勤時間のいずれも悪化をたどってきました。その結果、結婚率が低下し、出生率も低下して少子化が進行する悪循環が進行しているとも言えます。
社会人として求められる技能と技術はめざましく変化しています。教育制度がそれに追いつかず、単純労務の人材として位置づけられ低賃金にあえぐ人々が多く存在しています。もはや個人の責任でなく教育政策の不在が能力開発を怠っている状況なのだと感じます。
高齢人材の活用は、若手の登用や老齢年金との関連で今まで語られてきました。定年退職制度は、人口増加の時代に若手に職を回すために高齢者が身を引く制度です。まだ働けるのに引退する、そのご褒美に年金をもらうのです。今や人口が減少しておりこの仕組みは無用です。社会に役立つ限り、日々人は働き続け労働の喜びを得ることが出来ます。このことは高齢者に限らず、女性、障害者についてもあてはまります。
生涯にわたって社会に役立つことは喜びであり、人間としての尊厳だと思うのです。
まとめ
- 政権交代とは: 政権交代は別政党の議員が内閣総理大臣に就任することを指し、同じ政党内の交代は含まない。
- 内閣総辞職: 内閣総辞職は、内閣不信任決議案可決、総選挙後の初国会、総理の欠員、総理の辞意表明の4つの場合に起こる。
- 内閣不信任決議案の可決可能性: 自民党内での反岸田派の動きがなく、2024年中に内閣不信任決議案が可決される可能性は低い。
- 衆議院総選挙の見込み: 前回総選挙が2021年10月で、次回は2025年10月のため、2024年中に総選挙はない見通し。
- 総理の欠員の可能性: 岸田総理は自民党総裁選再選に向けて手堅い動きを見せており、2024年中に総理の欠員が生じる可能性は低い。
- 総理の辞意表明の可能性: 岸田総理が辞意を表明する兆しはなく、2024年中の辞意表明は考えにくい。
- 政権交代の条件: 政権交代は国民の与党への不満と与野党の組織力逆転が重なることで起こる。
- 野党の現状: 維新の会や国民民主党などの「是々非々路線」が支持を集める一方、即時の政権交代をもたらす野党の組織力は不足している。
- 時間がかかる政権交代: 政策一致を図る連立政権の形成には時間がかかり、即時の政権交代は見込めない。
- 重要政策課題への対応: 安全保障、経済成長、少子高齢化問題など重要課題への対策が求められており、新政権にはこれらの課題に対する確固たるビジョンが必要。