「政務活動費はいくら交付されているのですか?」と聞かれることが多くあります。
全国には、町村議会から市議会、区議会、政令市議会、そして都道府県議会まで、1,788の議会があるので、全部を点検しないと正しいことは言えません。
詳しく分析しましたので、ぜひご覧ください。
- 【筆者について】
- 山辺美嗣、もしくは山辺美嗣の情報をもとに夫婦で執筆しています。
【やまべみつぐ(山辺美嗣)】
通産官僚、国連(ジュネーブ)、独法(ニューヨーク)での勤務を経て、その後県議会議員に。日本初の地産地消政策や、地方議員としてロシアとの直接交渉などを実現しました。保守三つ巴の熾烈な選挙戦や、他の候補者の選対としても活動した経験を基に執筆しています。現在、政治行政のコンサルタント。【やまべちかこ(山辺千賀子)】
元人材育成コンサルタント。ニュースキャスターや番組ナレーター(恩師|お茶の水博士・ベルクカッツェ)、女性組織創設運営などの活動を地方で行ってきました。議員の妻としての立場、認知症や身障等の家族(計5人)との暮らしなどで経験したノウハウもお伝えしています。夫の議員引退を機に、故郷の雪国から子や孫のいる関東に転居。孫4人。
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政務活動費の交付月額
地方自治法は、政務活動費を自治体ごとに条例で定めると規定しています。
地方自治法第100条
⑭ 普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。
この場合において、当該政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は、条例で定めなければならない。
⑮ 前項の政務活動費の交付を受けた会派又は議員は、条例の定めるところにより、当該政務活動費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。
⑯ 議長は、第十四項の政務活動費については、その使途の透明性の確保に努めるものとする。
では、実際どれだけの地方議会で条例が定められているのでしょうか。
全国には、1,788の地方議会があります。そのうち、政務活動費条例が定められている議会は約半数であり、残りの半数の議会には政務活動費条例がありません。
地方議会の政務活動費条例制定状況
全ての地方議会数 | 1,788 |
条例制定している 議会数(割合%) |
965(54.0) |
政務活動費 1人当たり平均月額 |
52,000円 |
©MiraiProject 無断転載を禁じます。
そして、交付されている政務活動費の月額は、全議会の平均が52,000円です。
この平均金額については、議員によっては全く違う反応があろうかと思います。
こんなにも反応が違ってくる原因は何でしょうか。
では、地方議会の分類別に、政務活動費の実状を見ていきましょう。
町村議会の政務活動費
全国の町村は、926(うち町743、村183)を数えます。
町村は、全国の自治体総数1,788の半数(51.8%)を占めており、地方自治をになう重要な存在です。
しかし次の表を見て分かるように、政務活動費条例を制定している議会が、町村全体の2割に過ぎないことは驚きでしょう。
また、町村議会の政務活動費は平均月額が9,400円と、全国の地方議会平均52,000円のさらに5分の1でしかありません。
町村の人口規模 | 170~51,000 |
議会数 | 926 |
条例制定している 議会数(割合%) |
195(21.1) |
政務活動費 1人当たり平均月額 |
9,400円 |
(出所)全国町村議会議長会 令和4年7月1日調べより作成 ©MiraiProject 無断転載を禁じます。
町村議会が、政務活動費条例を制定していない理由は?
政務活動費条例を「必要ない」とする議会が約8割を占めていることについて、全国町村議会議長会の調査があります。
政務活動費条例を制定していない715町村から、複数回答方式で調査した結果はつぎの通りでした。
政務活動費を交付していない理由 | 回答数 | 割合(%) |
近隣⾃治体の状況を踏まえ交付していない。 | 331 | 46.3 |
財政的に厳しい。 | 245 | 34.3 |
住⺠の理解が得られない。 | 168 | 23.5 |
議会で政務活動費は必要ないと決めている。 | 110 | 15.4 |
議員報酬の引き上げの⽅が先決である。 | 79 | 11.0 |
議員間で政務活動費の交付に対し賛否が分かれている。 | 76 | 10.6 |
(出所)全国町村議会議長会 令和3年4月~6月調査より抽出して記載。
理由の1番目は、ある意味客観的であり、周りの町村が交付していない事実を理由とするものです。
理由の2番目から6番目までは、議員が自らの判断として、交付しないと決めた理由が回答されています。
町村の平均人口は11,000人。議員定数は平均12人。
こうした、小規模な自治体の議会では、あらたに政務活動費を設ける余地があるのか。
実態上の議論についても考慮することが大事ですね
そのことも関係がありますか?
しかし町村の議会も、会社のようにガバナンスを強化すれば、政務活動費を安心して導入できるのではないでしょうか
市議会の政務活動費
市の人口規模 | 議会数 | 条例制定している 議会数(割合%) |
政務活動費 1人当たり平均月額 |
~50,000 | 287 | 217(75.6) | 19,000円 |
~100,000 | 247 | 227(91.9) | 24,000円 |
~200,000 | 149 | 147(98.7) | 38,000円 |
~300,000 | 47 | 47(100) | 79,000円 |
~400,000 | 29 | 29(100) | 93,000円 |
~500,000 | 21 | 21(100) | 121,000円 |
500,000~ | 15 | 15(100) | 168,000円 |
政令市 | 20 | 20(100) | 295,000円 |
合 計 | 815 | 723(88.7) | 45,000円 |
(出所)全国市議会議長会 令和3年12月31日調べより作成 ©MiraiPrject 無断転載を禁じます。
結論を言えば、小規模市の議会と町村の議会とで、政務活動費への対応にあまり違いはありません。
5万人未満の市は、制定率75%、月額19,000円。町村は、制定率21%、月額9,400円。
一見すると違って見えますが、人口規模で詳細にみるとよく似ているのです。
5万人未満の市では、2万5千人以上~5万人未満の市議会は、100%近く政務活動費条例を制定しています。
一方町村でも、1万7千人以上~5万1千人までの比較的大きい町村議会は、100%近く政務活動費条例を制定しています。
つまり、政務活動費条例を制定しているのは、市であれ町村であれ、一定以上の人口規模をもつ議会となっています。
政務活動費の1人当たり月額が異なるのも、条例を制定している自治体の人口がそれぞれ違うことによる結果と思われます。
財政上の制約、他の議会との横ならび意識、この二つが原因だと考えられます。
まず財政上の制約ですが、自治体の自主財源は人口が増えると収入全体に占める比率が高くなる傾向にあります。
政務活動費は義務的経費ではないので、自主財源で対応することになります。
つまり、自主財源に余裕のある人口の大きな市ほど、政務活動費の月額を高くできるわけです。
では横ならび意識はどうでしょうか。
地方議会では「あそこがこれくらいなら、うちはこれくらいだろう」という納得で、月額が決まる傾向にあります。
このことは議員報酬の額についても同様といえます。
全国の市議会平均で、政務活動費の月額は45,000円と、全国の地方議会平均の月額52,000円に少し及びませんが、同レベルの金額です。つまり、地方議会の平均的な姿は、市議会が表していると言えます。
都道府県議会の政務活動費
都道府県議会の政務活動費を次の表で概観します。
全ての都道府県議会で政務活動費条例が制定されており、その平均月額は351,000円と、全地方議会の平均月額の6倍以上です。
実際のところこの格差については、議員一人当たりの政務活動の内容の違いで説明することが難しいといえます。むしろ、「金額が先に決まって、その範囲で活動の内容が決まってくる」と言った方が正しいかもしれません。
都道府県議会数 | 条例制定議会数(割合%) | 政務活動費 1人当たり平均月額 |
47 | 47(100) | 351,000円 |
(出所)総務省地方自治月報第60号 令和3年4月1日調べより作成 ©MiraiProject 無断転載を禁じます。
市議会で見られた階層構造は、都道府県議会でも見ることができます。
都道府県の政務活動費 1人当たり月額 |
議会数 |
59万円 | 1 |
54万円 | 1 |
53万円 | 2 |
50万円 | 4 |
45万円 | 2 |
40万円 | 1 |
35万円 | 5 |
33万円 | 4 |
31万円 | 5 |
30万円 | 16 |
28.1万円 | 1 |
28万円 | 3 |
25万円 | 2 |
(出所)総務省地方自治月報第60号 令和3年4月1日調べより作成 ©MiraiProject 無断転載を禁じます。
都道府県議会の平均月額は約35万円でしたが、最も県の数が多い金額は月額30万円で16県あります。
月額の大きいほうから順にベスト10は、大阪、京都、北海道、神奈川、東京、埼玉、愛知、福岡、静岡、兵庫、となります。
月額の小さいほうから順に30万円未満の県は、徳島、鳥取、沖縄、高知、奈良、山梨、となります。
このように概ね人口の規模に応じた階層となっていることが分かるでしょう。
まとめ
政務活動費を巡っては、不正事件が大きく報道されてきたため、マイナスのイメージで受け止めている方も多いかもしれません。
しかし、政務活動費は地方自治の発展に重要な役割を果たすために設けられたものであり、本来のプラスの側面が強調されるべきでしょう。
地方議員の先輩たちが努力を重ねた末に勝ち取ってきた、地方自治の成果が政務活動費です。
ふり返ると平成12年に、全国の地方議員による長年の要請が実を結び、地方自治法が改正されて初めて「政務調査費」が制度化されました。
その後平成24年には、地方分権の一層の推進のため、使途の対象を広げるとともに名称を変更する地方自治法改正が行われて「政務活動費」となったのです。
政務活動費により、地方議会が目指す機能を一層発揮できることを願い、筆者はこの記事を書きました。
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政務活動費で問題をおこすのは、市議会議員とか、県議会議員とか、いつも地方議員ですね。国会議員は起こさないのに。 国会議員は「政務活動費問題」を起こしたくても起こせません。そもそも使途をすべてチェックされる「政務活動費」は、国会議員にありま[…]