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【議員提案条例】の作り方|地方独自の「グリーンツーリズム政策」が誕生した経緯

 

地方議会が「議員提案条例」を制定することで、国に依存しなくても、「独自の政策」を推進できることを、この記事では解説しています。

事例に取り上げるのは、2003(平成15)年3月に富山県議会で成立した「都市との交流による農山漁村地域の活性化に関する条例」です。(※)

グリーンツーリズムを政策条例として自主制定したのは富山県議会が全国初なのですが、現在でも「地方分権推進」のモデルになっています。

筆者はこの条例の調査段階から成立までの間、プロジェクトチームの一員として活動しましたのでリアルな報告をしたいと思います。

 

(※)条例本文は記事の末尾にリンクがありますので、後ほど参照してください。

 

【筆者/やまべみつぐ】について
【やまべみつぐ(山辺美嗣)】
通産官僚、国連(ジュネーブ)、独法(ニューヨーク)での勤務を経て、県議に。日本初の地産地消政策や、地方議員としてロシアとの直接交渉などを実現しました。その後、県議会議長に就任。保守三つ巴の熾烈な選挙戦を経験し、他の候補者の選対としても活動しました。現在、政治行政のコンサルタント。議員引退を機に、故郷の雪国から子や孫のいる関東に転居。孫5人。

 

 

 

国の「グリーンツーリズム」政策が生まれた背景

国のグリーンツーリズム政策は、ヨーロッパで広く普及している農村での長期滞在型観光を日本でも広めて、景気対策を図ろうというねらいで生まれました。

 

グリーンツーリズムは生まれてからまだ30年ほどの新しい政策用語です。
「グリーンツーリズム」は和製カタカナ語であり誰が名付け親なのか不明ですが、1992(平成4)年6月に農林水産省が「新しい食料・農業・農村政策の方向」という新政策を打ち出し、施策の一つとしてグリーンツーリズムを取り上げたのが政府として使った最初でした。

そして1995(平成7)年4月には「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律」が施行されたのですが、この法律の当初の略称「農山漁村余暇法」は日も経たないうちに「グリーンツーリズム法」と呼ばれるようになり、グリーンツーリズムの語が定着し始めました。

この時期は大きく景気が後退したバブル崩壊とその後の景気低迷の期間であり、農林水産省のグリーンツーリズム政策も景気回復を狙ったものでした。

 

 

 

国の政策に地方はどう反応したのか?

グリーンツーリズム法は、農山漁村滞在型余暇活動を促進するために「基盤整備」を進めるものであり、国は拠点施設の建設支援と農村民泊の規制緩和を行いました。

拠点施設の建設にいち早く反応したのは長野県飯山市です。1996(平成8)年に「グリーンツーリズム施設条例」を制定し、市内に4つの拠点施設を建設整備する方針を打ち出しました。飯山市の反応は外国人観光客のインバウンドツーリズムもねらったものです。その後も、越谷市など幾つかの地方自治体で「グリーンツーリズム施設整備の条例」が制定されています。
農家民泊の規制緩和策に早く反応したのは北海道です。2003(平成15)年には「旅館業法施行条例の改正」、2007(平成19)年には「食品衛生法施行条例第4条に基づく弾力的な運用」を行い、全国の多くの都府県でも同様に「規制緩和の条例改正と運用改正」が行われ農村民泊が進展しました。

 

 

 

富山県議会はいかに反応したのか?

富山県議会の自民党会派は『地方分権の流れに反応』して、「グリーンツーリズム」条例の議員提案に着手しました。
それは国のグリーンツーリズム法施行からから7年後の、2002(平成14)年4月のことです。

条例の目的は、富山県が課題としていた「農山漁村地域の活性化」であり、一方、国はまだ農山漁村活性化の法制検討に取り組んでいませんでした。

2000(平成12)年には地方分権一括法が施行され、国の機関委任事務は廃止されて地方の権限の強化が図られていました。
その一環として、国の法律の下請け的な「委任条例」が大幅に縮小され、地方は「自主条例」を拡大していくことが求められていたのです。

富山県議会は、こうした地方分権推進の流れに反応して、自主条例の検討を開始したものでした。

 

地方の政策が先行して、国が後から追いかけた!

2002(平成15)年に富山県の「都市との交流による農山漁村地域の活性化に関する条例」が制定されてから4年後の、2006(平成19)年には国会において「農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律(農山漁村活性化法)」が制定されました。
この法律の第一条に「人口の減少、高齢化の進展等により農山漁村の活力が低下していることにかんがみ、農山漁村における定住等及び農山漁村と都市との地域間交流を促進するための措置を講ずることにより、農山漁村の活性化を図ることを目的とする」と書かれており、富山県条例と同じ農山漁村の活性化をねらうものとわかります。県の条例を国の法律が後追いし、県の政策を国が追認するという、地方の政策が先行する画期的なケースとなりました。

 

 

富山県の「グリーンツーリズム」条例はどのような手順で作られたか?

この条例を議員提案して成立するまでに、自民党会派では次のようなステップを踏みました。

  1. 会派内にプロジェクトチームを作り、原案作成の一任を与える
  2. 条例の原案ができたら、会派役員は知事部局と意見交換する
  3. 知事部局との合意、会派内の合意ののち、他の会派に趣旨説明をして賛同を求める
  4. 会派として、議会ホームページにより条例案に対する県民からのパブリックコメントを求める
  5. 条例を議員提案し、常任委員会及び本会議で審議し可決する

 

なぜ早い時期に知事部局と意見交換して合意する必要があったのですか?

この条例は、知事にアクションを求めるものであったので、どうしても知事部局との合意が必要でした。

具体的には、次の3つのアクションです。
①知事は交流地域活性化センターを1に限り認可する
②知事は重点地域を指定する
③知事は予算の確保に努める

とくにについては予算提案権は知事の優越的権限なので、実効性を確保するために知事部局と意見交換して事前に合意することを目指したのです。

 

 

プロジェクトチームでの議論のポイント

プロジェクトチームは先駆者としてゼロから作る困難もありましたが、逆に先例に縛られないで自由に発想することもできました。

なぜなら県の条例は、結果的に国より4年も先んじて制定することになったため、お手本が無かったからです

プロジェクトチームは6か月間にわたり集中的に検討を行い、会派の議員総会に経過報告を行いつつ条例案の原案を作りましたが、その過程で議論した需要なポイントについて以下に説明します。

  1. 国のグリーンツーリズム法(農山漁村余暇法)への配慮
  2. 条例の命令事項をどのように決めるか
  3. 活動の中心になる民間組織は誰が作るか
  4. 県内各地での組織化の進め方

 

国のグリーンツーリズム法(農山漁村余暇法)への配慮

先に述べたように、国は1995(平成7)年にグリーンツーリズム法を施行していました。

プロジェクトチームとしても、国民に定着しつつあった「グリーンツーリズム」は、愛称としてぜひとも使いたかったので、国の法律とバッティングする条例になることは避けたいという思いがありました。そのためグリーンツーリズム法が定めている定義などはそのまま用いつつも、条例の目的はあくまでも「農山漁村地域の活性化」とする方針でいくことにしたのです。

 

 

② 条例の命令事項をどのように決めるか

命令事項(法律事項とも言う)をどのように定めるかは条例の真骨頂でした。
なぜなら条例は「〇〇について△△のようにしなさい」と命令事項を定めることによって、はじめて法令として成立することになるからです。

プロジェクトチームは次のような問答を繰り返して、命令事項の骨格を検討しました。

 

農山漁村地域の活性化を全県的に推進する組織として、どのようなものが適切か?
県庁の外郭団体といったものでない、民間主導の組織が良いと思われる。なぜなら条例のねらいを実現するには、民間の主体的な行動が重要になるからだ。
市民活動が中心となり、企業の寄付も得ることができる「特定非営利活動法人(NPO法人)」が最適ではないだろうか。
申請により、1に限り知事が認可することにしてはどうか。

 

 

活性化に熱心な取り組みをする地域をどのようにして増やしていくのか?
都市との交流により活性化を進める農山漁村地域を早い段階から支援出来るようにしたい。
住民組織が自発的な取り組みを始めている地域、それに呼応して都市住民が地域活動に参加し始めている地域などを、「重点地域に指定」してはどうだろうか。
そうすれば認可法人が情報媒体でPRできるし、県も支援措置を講じることができるのではないだろうか。

 

 

認可法人の活動や重点地域の活動に対する県の支援をどのように書き込むか?
県の支援について「義務」として書くことは出来ない。なぜなら「補助金等」は知事の予算提案権に係るものであり、同時に議会の議決権に係るものであるからだ。
県は「支援に努める」とすることが妥当であろう。いずれにしろ「知事部局」及び「議会の各会派」には、条例提案前に了解をとることが重要だ。

 

 

 

 

 

③ 活動の中心になる民間組織は誰が作るか

県内で都市と農山漁村の交流を進めて地域を活性化しようと取り組むNPO法人は全く存在していなかった時代でした。
自民党会派で条例検討を始めた2002(平成14)年4月時点では、NPO法が施行された1998(平成10)年12月から未だ3年しか経過していなかったのです。

農山漁村の活性化に意識をもって活動している個人個人が何とか結集してもらえないだろうか。そんな思いでプロジェクトチームは各々の地元で活躍する人たちを洗い出しましたが、結果的には思いのほか大勢の方々が県内で活動していらっしゃったのです。

里山に立地する福光美術館長の奥野さん、朝日町で伝統の和紙づくり復活に取り組む長崎さん、上平村で石積みの段畑保全に取り組む東田さん、などなど県内の全域で活躍している多くの名前が挙がりました。

また県の農林水産部農村環境課でプロジェクトチームに協力をいただいた職員の中には、地域づくりに熱心な方々がいて各地の活動者を紹介していただきました。

こうした方々の尽力でNPO法人「グリーンツーリズムとやま」が設立され知事の認可を得ることができました。20年経過した現在にいたるまでも多くの役員がボランティアとして活躍され、多彩な事業が自主的に展開されています。

 

 

 

④ 県内各地での組織化の進め方

2004(平成16)年には10か所ほどであった重点地域は、2022(令和4)年には49か所となっています。(下図は2008(平成20)年度の重点地域28か所の位置です。)

プロジェクトチームでは「100か所をめざそう」と言っていたのですが、20年ほどたってようやく道半ばに到達した感があります。

各地での組織化が進んできた要因には、認可NPO法人「グリーンツーリズムとやま」に多くのボランティアが集結して、地域拠点形成に尽力してきたことが挙げられます。議員各位もNPO法人の会員となり協力をいただいてきました。

グリーンツーリズムとやまの活動には「とやま帰農塾」「とやま農務ステイ」などユニークなネーミングがあるので、ぜひHPを見てください。

 

 

 

条例提案での会派の役割

定数40の議会で、過半数である21以上の賛成を得ることは、会派の存在無くしては実現できなかったと思います。

会派による丁寧な他の会派への説明の結果、他会派の議員も提案者に名前を連ねることになり、全員賛成の議決を得ました。(県議会議員選挙の選挙区を定める条例など、議員の身分に関する条例は、それまでも議員提案で行うことが慣例でしたが、政策を定める条例が議員提案で成立したのは、これが富山県議会で最初の例です。)

この記事では「会派」が果たしている役割を、肯定的に受け止めています。議員には実現したい政策があります。選挙で有権者に約束した公約があります。会派は、政策実現を目指す同志の集団なので、入った方が良いと考えるからです。

この考えをさらに一歩進めると「政策が一致する会派が無いときは新たに会派を作ったらよい」という論理があるでしょう。実際のところ全国の議会では、会派が生成消滅を繰り返しています。
議会を構成するのが志を持つ議員であり、議会の役割が政策の実現である以上、会派が変化していくことは当然にして起こることであり、その変化を恐れることはないと言えます。

 

参照

【富山県の条例】については、この個所をクリックすると本文を見ることができます。

 

 

 

 

 

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【①地方議員向けに特化した情報】
既存の議員関連情報(マスコミ報道や選挙マニュアル等)は国会議員を想定したものが中心です。地方議員の実情に合った情報をお探しの方におすすめです。

【②議員当事者ならではのノウハウや実情が豊富】
連続6回当選の元県議会議長が、勝ち抜いてきたノウハウを公開しています。保守三つ巴の熾烈な選挙戦や、他の候補者の選対として培ったノウハウもご紹介します。

【③ 地方議員と支援者への応援情報】
官僚・国連勤務・県議経験者の筆者が、地方議員からは見えにくい「国会議員と地方議員の違い」「他国と日本の違い」をふまえて解説しています。選挙法規等は議員目線で読み解いています。議員活動を支えた妻も、人材育成業の経験を活かし、わかりやすい情報を目指して執筆に加わっています。