⇧ スライドするとカテゴリーがご覧いただけます ⇧

「政務活動費制度」の【根本の問題】は何か

この記事は「政務活動費制度の根本の問題は何か」を詳細に検証するものです。

 

政務活動費問題の本質は、「不正請求」ではありません。

政務活動費は、制度そのものに根本的な問題があり、解決されずに放置されているのです。

 

政務活動費を巡っては、地方議員による不正請求事件が後を絶ちません。

このような違法行為にばかり世間の目が向いていしまうと、問題の本質が見えなくなってしまいます。

政務活動費の請求を厳しく審査する体制を整備して、まずは不正を根絶していくことが大切だと考えます。

筆者について】
山辺美嗣、もしくは山辺美嗣の情報をもとに夫婦で執筆しています。

やまべみつぐ(山辺美嗣)
通産官僚、国連(ジュネーブ)、独法(ニューヨーク)での勤務を経て、その後県議会議員に。日本初の地産地消政策や、地方議員としてロシアとの直接交渉などを実現しました。保守三つ巴の熾烈な選挙戦や、他の候補者の選対としても活動した経験を基に執筆しています。現在、政治行政のコンサルタント。

やまべちかこ(山辺千賀子)
元人材育成コンサルタント。ニュースキャスターや番組ナレーター(恩師|お茶の水博士・ベルクカッツェ)、女性組織創設運営などの活動を地方で行ってきました。議員の妻としての立場、認知症や身障等の家族(計5人)との暮らしなどで経験したノウハウもお伝えしています。

夫の議員引退を機に、故郷の雪国から子や孫のいる関東に転居。孫4人。

目次から必要個所をクリックしてご覧いただけます。

5つも残されている根本的な問題

政務活動費制度の根本的な問題はつぎの5点です。

  1. 国の制度ではない (国は法律で政務活動費という名称を決めただけ)
  2. 目的が不明な制度 (地方議会の何を強化しようとするのか不明である)
  3. 制度として不安定 (基本事項が不明なままに交付の仕方のみを決めている)
  4. 議員1人当たりの金額に大きな格差 (人口横並びや財政状況で月額を決めている)
  5. 地方議員に厳しく国会議員と不平等 (国会議員にはゆるい制度がある)

 

これから順に、根本的な問題の詳細を説明しましょう。

 

 

問題その① 国の制度ではない

政務活動費が制定された経緯を見てみましょう。

当初は政務調査費として、平成 12 年に国会において、地方自治法改正が議員立法により行われて制度化されました(平成 13 年 4 月施行)。地⽅分権一括法とほぼ同時に制度化されたものです。

その後、政務活動費に名称を変更する地方⾃治法の改正がなされて(平成 25 年3 月施行)、今日に至っています。

ところで国は地方自治法を改正して、政務活動費という名称は決めましたが、政務活動費の中身について何も決めていません

国会が法律で決めたのはつぎの2点です。

  1. 「議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費」として、地方自治体が政務活動費を交付してよい
  2. 「交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲」などの内容は、地方自治体が条例できめる

 

つまり、政務活動費は国が法律で内容を決めずに条例にすべてを委任しており、地方自治体ごとに、決めることも決めないこともできる、任意の制度なのです

地方自治体ごとに条例で決める「任意の制度」です

 

「法律が内容を条例に委任した」この構造は、地方自治について「憲法が内容を法律に委任した」構造に似ています。

憲法が決めているのはつぎの2点です。

 

  1. 地方自治体に「議事機関設置と財産管理・事務処理・行政執行」の権能を認める
  2. 地方自治体の「組織及び運営に関する事項」は、地方自治の本旨にもとづいて、法律で定める

 

こうして憲法により地方自治の内容を決めることなく、すべてを法律に委任する「丸投げ」が行われました。

国が「丸投げ」したため、
「憲法が決めてくれなかった地方自治」を「地方分権一括法」によって地方が獲得したのは、憲法制定後55年をへた、2000年だったことを忘れてはならないと思います。

 

「丸投げ」は、実際のところ重大な問題を引き起こします。

下位の法に次々と委任していくことで、最終的には議会で作られる法律や条例でない「行政上の規則や告示」に、実質的な内容が記述されるようになります。

つまり、立法府の役割が不要になり、行政府が定めれば十分となるため、三権分立の否定、すなわち民主主義の否定につながっていくのです

 

 

問題その② 目的が不明な制度

政務活動費を交付する「目的」は何か、法律には記述がなく不明です。

政務活動費は「議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費」であるという、経費としての一応の定義は法律に定めていますが、「何のために」交付するのか「目的」の記述が無いのです。

 

政務活動費は、地方自治法第100条の改正により法制化されました。そもそも第100条は「議会が監視機能を果たすための調査権」を規定した条項です。

その観点からすれば、政務活動費は「監視機能」の強化を目的とするもののように見えます。

 

さて、議員が議会で活動することは「公務」であるのに、なぜ「政務」という語がつかわれているのでしょうか。

政務」という語から想起されるのは、かつての中央省庁で使われていた、「政務次官」と「事務次官」の区別であり、現在の「副大臣・大臣政務官」です。これらの役職は「大臣を助け、特定の政策および企画に参画し、政務を処理する」と各省令に規定されています。

つまり「政務」とは、事務とは異なる政治マターであり「政策形成機能」を指しているのです。

この意味からは、政務活動費は「政策形成機能」の強化を目的とするものととらえることができます。

 

議員立法の際、担当した国会議員は「政策形成機能」を意識していたけれど、そもそも地方自治法に、議会の政策形成の条項が無かったので、第100条の「調査権」に関連させて改正した。

政務活動費を先ずは法律に書き込んで、費用を予算から出せるようにすることが優先だったので、「目的」については提案する余裕がなかった。これが実態の様です。

地方自治法に政務活動費の目的の記述が無いことは、後ほど「国会議員との不平等」を論じる際に、地方議員にとって大きなハンディとなります。

 

 

 

問題その③ 制度として不安定

地方自治法第100条は「政務活動費の内容は条例で定めなければならない」としています。

すなわち、

条例に定めさえすれば「何にでも使ってよい」と解釈できます。

これに加えて、第100条は「交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲」を条例で定めるよう指示していますが、

内容をどのように決めたらよいか何ひとつ示していないのです。

このため、地方議会の全国団体は総務省の支援を得ながら、モデル条例を示したり参考資料を整えたりして地方議会の条例制定を支援してきました。

このように基本的な事項が法律では不明なままに、それぞれの議会が条例で任意に内容を決めてきたのが政務活動費であり、とても不安定な制度なのです。

 

政務活動費は、地方自治法改正により国会で決めた制度ですが、条例を制定した地方議会の割合は約半数の54%にとどまっています。

965の地方自治体が条例により政務活動費を運用していますが、一つとして同じ仕組みではありません。政務活動費の実態は、「制度として不安定」であると言わざるを得ないでしょう

 

 

 

問題その④ 議員1人当たりの金額に大きな格差

 

政務活動費の議員1人当たり月額が、自治体の人口規模にしたがって、階層構造を作っていることは別記事に書いたところです。

 

関連記事

「政務活動費はいくら交付されているのですか?」と聞かれることが多くあります。 全国には、町村議会から市議会、区議会、政令市議会、そして都道府県議会まで、1,788の議会があるので、全部を点検しないと正しいことは言えません。 詳し[…]

 

まるで大相撲の階級制度の様です。

町村は幕下、人口20万人未満の市は幕内、その後人口が増えると小結、関脇となり、政令市は大関、都道府県が横綱でしょうか。

強い者が上位になる「格闘技」ならともかく、地方議員は人口規模に関わらず住民にとっての役割は同等であるはずです

しかし実際には、地方議会では横ならび意識が支配的なため、支給される政務活動費の月額は見事に階層構造を作っているのです。

 

地方議会では「人口の大きな自治体がえらい」という、序列を是認する意識が支配しています。

これは、「人口が同規模どうしは横ならびがよい」とする「横並び」意識に通じます。

つまり「横が一緒なら、縦は序列があってもよい」との考えが流布しています。

しかし、自治体の人口規模に関わりなく、地方議員が住民の福祉と地域の発展のため、一人一人が果たすべき役割はまったく同じはずです。

 

問題その②の箇所で書いたように、政務活動費の「明示されていない本当の」目的は「政策形成機能」の強化にあります

会派や議員個人に、自治体の政策形成に必要な経費として「調査費」「研修費」「資料購入費」「旅費」「通信費」「事務費」などが、いくら必要なのかを議員1人当たりの経費として算定することは困難なことではありません。

 

実態を踏まえた必要経費を交付すべきであって、横並びなどで金額を設定することは、根拠のない暴挙でしょう。

 

問題その⑤ 地方議員に厳しく国会議員と不平等

 

地方議員の「政務活動費」と同様の役割を果たしている経費が、国会議員にもあります。

立法事務費 目 的 国会議員の立法に関する調査研究を推進するため
交付先 各議院内の会派のみ
月 額 議員1人当たり65万円
調査研究広報滞在費 目 的 調査研究等の議員活動を行うため
交付先 議員個人
月 額 議員1人当たり100万円

 

この2つの経費は、いずれも法律により「目的」が明示されており、領収書等の支出証拠書類が不要な議会費です。

法律が定めている目的は、

立法事務費については「国会が国の唯一の立法機関たる性質にかんがみ、国会議員の立法に関する調査研究の推進に資するため」

調査研究広報滞在費については「国政に関する調査研究、広報、国民との交流、滞在等の議員活動を行うため」と、

明らかに目的を規定しています。

地方議員も、政務活動費で全く同じ内容の活動を行っていますが、政務活動費は法律で目的が明示されていないという「国会議員との違い」があるために、「支出の証拠書類が必要な請求払い経費」の扱いを受けているのです。

国会議員には「証拠書類の不要な先払い経費」であり、地方議員はいちじるしく不平等に扱われているのです。

 

\関連記事もご覧ください/

関連記事

「政務活動費はいくら交付されているのですか?」と聞かれることが多くあります。 全国には、町村議会から市議会、区議会、政令市議会、そして都道府県議会まで、1,788の議会があるので、全部を点検しないと正しいことは言えません。 詳し[…]

関連記事

政務活動費で問題をおこすのは、市議会議員とか、県議会議員とか、いつも地方議員ですね。国会議員は起こさないのに。 国会議員は「政務活動費問題」を起こしたくても起こせません。そもそも使途をすべてチェックされる「政務活動費」は、国会議員にありま[…]

関連記事

政務活動費は、地方議員が力量を発揮するために必要な、重要な議会費です。この費目を確立するまでには、多くの先輩地方議員が全国で連帯して長年にわたって努力をしてきました。 近年、政務活動費を巡って全国で事件が起きたことはとても残念なことであ[…]

 

 

\最新記事のフォローはこちらから/

議員応援ブログ - にほんブログ村

人気ブログランキングでフォロー

ツイッター▶やまべみつぐ 
ツイッター▶やまべちかこ 

 

>本ブログ3つの特色

本ブログ3つの特色

【①地方議員向けに特化した情報】
既存の議員関連情報(マスコミ報道や選挙マニュアル等)は国会議員を想定したものが中心です。地方議員の実情に合った情報をお探しの方におすすめです。

【②議員当事者ならではのノウハウや実情が豊富】
連続6回当選の元県議会議長が、勝ち抜いてきたノウハウを公開しています。保守三つ巴の熾烈な選挙戦や、他の候補者の選対として培ったノウハウもご紹介します。

【③ 地方議員と支援者への応援情報】
官僚・国連勤務・県議経験者の筆者が、地方議員からは見えにくい「国会議員と地方議員の違い」「他国と日本の違い」をふまえて解説しています。選挙法規等は議員目線で読み解いています。議員活動を支えた妻も、人材育成業の経験を活かし、わかりやすい情報を目指して執筆に加わっています。