政党に入るかどうかは、地方議員にはとても重要な問題です。
政党は政治資金などの面で、日ごろから政治活動を支援してくれますし、選挙でも政党公認候補には支援があります。
こうしたメリットがある反面デメリットもあるので、地方議員の皆さんは、選挙区事情、政治情勢、自己の政治信条などいろんな観点から、政党について判断に悩むことになるでしょう。
この記事は、議員経験24年の筆者が政党に入るメリットとデメリット、そして地方議員の党派届の実際も分析していますので、皆さんの判断材料になれば幸いです。
- 【筆者/やまべみつぐ】について
- 【やまべみつぐ(山辺美嗣)】
通産官僚、国連(ジュネーブ)、独法(ニューヨーク)での勤務を経て、県議に。日本初の地産地消政策や、地方議員としてロシアとの直接交渉などを実現しました。その後、県議会議長に就任。保守三つ巴の熾烈な選挙戦を経験し、他の候補者の選対としても活動しました。現在、政治行政のコンサルタント。議員引退を機に、故郷の雪国から子や孫のいる関東に転居。孫5人。
立候補届に政党名を書きますか、どうしますか?
政党に入るか入らないかは、議員を目指すとき真っ先に考えなくてはならないことの一つです。
なぜなら選挙の当落にもかかわる、そして政治活動のお金にも関係する重要な問題だからです。
ですから選挙のとき、立候補届を出す直前になって、党派をどうしようかと悩むようなことは絶対無いようにしましょう。
さて、いざ立候補届を出すときは、党派の記入と、「所属党派証明書」の提出が求められます。
無所属の場合には無所属と書き、党派証明書は不要となります。
党派の書き方としては、「政党」(公職選挙法の要件を満たすもの)と「諸派」(選挙管理委員会に届け出のある政治団体)の二つに区分され、具体的な政党名や政治団体名を書きます。
政党に入るといろんなメリットやデメリットがあることを先ず見ていきましょう。
政党に入ると、地方議員はお金のメリットがある
政党は、公職選挙法上特別な地位を与えられており、企業、団体献金や政党交付金などを得て豊富な政治資金が集まります。地方議員もそのメリットを受けます。
先ず第1に、地方議員は、政党に所属している現職議員と新人の立候補予定者は、その選挙区で政党の支部長になることができます。
これによって、その候補者の政党支部は企業、団体献金を受け取ることができるようになります。
政党の支部長にならなければ享受できない権利なので、地方議員が企業、団体献金を受けることができるのは、政党のおかげといえます。
第2には、政党の政治資金の流れは国会議員経由で地方議員にも及びます。
政党の政治資金は、政党本部の経費や国政選挙の費用のほか、所属する国会議員の政党支部の活動費としても支出されますが、この資金から一部が地方議員の政党支部や資金管理団体あるいは後援会に対しても、交付金といった名称で寄付されます。
こうした政治資金は、すべてが政治活動に使われるものであり、私的な使用があってはいけません。
「国会議員から地方議員にお金が渡る」というのは、政治資金規正法の上では、「政治活動に使われるお金」であり、正当なものです。
しかし、裏で動いたお金がポケットに入ることになれば、それは間違いなく犯罪です。
第3には、選挙での政党公認料があります。地方議員は選挙で政党の公認を取ると、数万円から数十万円の公認料を選挙資金として得ることができます。
地方議員が政党から受けるその他のメリット
その他に第1のメリットとして、政党公認となれば、党所属の国会議員や選挙の重ならない地方議員が、選挙応援に駆けつけてくれます。
自らが選挙で戦った経験者が応援に来てくれることは、大きな支援になります。
第2に、政党は地方議員に対して研修などの機会を設けています。
党本部での研修会には全国から地方議員が集まり、研修と交流によって仲間づくりをしています。
政党は都道府県レベルや、国政選挙の政党支部レベルでも、研修、視察、交流会などを企画して、議会での発言力を増すことや、選挙での相互の応援体制を強化することなどを心がけています。
こうした企画ができるのも、企業、団体献金や政党交付金という豊かな政治資金でバックアップできる、政党ならではのことであり、政党に所属する地方議員は大きなメリットを享受しています。
政党にはデメリットも
このように地方議員は政党に入ると、選挙資金や当選後の政治活動資金の面でも大きなメリットを受けることができますし、お金以外にもメリットがあることがお判りいただけたと思います。
では、政党に入ったっ場合のデメリットは有るのでしょうか。
実際、選挙の際に政党を届けて、政党の公認や推薦を明らかにして選挙戦を戦うと得票が減る場合があることです。
その選挙区の個別事情にもよるのですが、例を挙げて説明するとわかると思います。
第1の例は「人口1,000人の村の村議会議員選挙で、定数が10名、当選ラインは80票」といった場合です。川一つはさんで、道一本はさんで、各候補者の陣取り合戦となる様子が見えてきませんか。こうした場合は、選挙の論点は唯一「俺たちの地区から村議を無くしてはならん」です。政党を持ち出せば地区の中で政党にケチをつける人が必ず出てきます。地区の団結が崩れると、当選が難しくなるという構図です。
第2の例は、市や町の議員選挙でも起きるケースです。例えば2,000票のラインを争っているとしましょう。A候補の重点地区にでは、B自治会長さんとC商工会長さんが各々100票の影響力を持っていて実は二人ともA候補と違う政党を支持している場合には、政党を明らかにした選挙になると票が減る危険がありえます。
第3の例は、D候補が懇意にしている同じ政党の国会議員が汚職の疑念を持たれている場合です。政党を前面に出して有権者に嫌われるより、無所属でいこうという判断はありえます。
こうした選挙区事情のときは、地方議員は多くの有権者に支持をいただくため、あえて無所属を選択することは十分にあることです。
地方議員候補者、どのように党派を届けているか【実際】
では、地方議員候補者は選挙に当たって党派を名乗るかどうかを、どのように判断しているのでしょうか。
まず、実際を見ましょう。下記の表は、地方議員の党派別内訳です。選挙に際して届け出た党派によって区分されていますので、当選した32,000人の地方議員の皆さんが立候補に当たって、党派届をどのように選択したかが分かります。
【地方議員党派別内訳】
党派区分
/ 議員区分 |
都道府県議会議員
人数(%) |
市区議会議員
人数(%) |
町村議会議員
人数(%) |
政 党 | 1670(63.2) | 6489(34.5) | 1281(11.8) |
諸 派 | 375(14.2) | 1099(5.8) | 95(0.9) |
無所属 | 598(22.6) | 11213(59.6) | 9432(87.3) |
合 計 | 2643(100) | 18798(100) | 10808(100) |
(令和2年12月31日現在総務省調査に基づいて筆者が作成)
さて、この表はつぎのことを言っています。
- 都道府県議会議員の77%は、党派を届けている。
- 市区議会議員で党派を届ける人は、40%と半数を下回る。
- 町村議会議員の87%は、党派を届けていない。
この結果をどのように分析するかですが、結論を言えば、当選ラインの票数の多少によって、地方議員候補者が党派をどう届けているかが大きく異なることが分かります。
地方議員選挙、当選ラインの票数で変わる、政党を届けるかどうかの判断
全国の地方議員選挙における、標準的な当選ラインの票数は、概ね次の通りです。
- 都道府県議会議員 10000~20000票
- 市区議会議員 2000~4000票
- 町村議会議員 100~400票
このように当選ラインが一桁違うと、選挙戦略がまったく違ってくることに注目しなければなりません。
都道府県議会議員のように、1万を超えるような大きな票を得る必要がある場合には、党派を有効に活用した組織的な選挙戦略が必要になると考えられます。
一方、市、町、村と選挙の規模が小さくなるにつれ候補者は日頃からの有権者との密着度が高まるので、党派を明らかにするよりも、個別の人間関係で支持を得る戦略のほうが選挙に有利だということが見えてきます。
それで、あえて政党を表に出さずに戦うという構図になるのだと思います。
ただし、市町村議員の政党に所属する割合が低いかというと、決してそうではありません。
議会など議員としての政治活動に当たっては政党を前面に出して活躍する市町村議員は沢山います。
それは、政治資金その他で政党にはメリットがあるからです。
つまり、地方議員の皆さんは、「選挙で、政党を届けるメリット」と「政治活動で、政党に入っていることのメリット」を上手に使い分けて、いいとこどりをしていることに、ぜひ注目してください。
地方議員は政党について、選挙区事情、政治情勢、自己の政治信条などから総合的に判断している
地方議員と政党との関係は、簡単にこうだと言い切れるものではありません。
様々な事情を総合的に判断して実際に対処されている様子がお判りいただけたかと思います。
なおこの記事では、党派のうち、おもに政党を取り上げて書きましたが、近年増えている諸派についても記事をご案内した際にはぜひお読みください。