【上の画像はメタル経済研究所より引用】
トランプ政権になってから急遽マスコミが注目することとなった「グリーンランド」は、ずっと以前から戦略的、経済的に重要な地域として着目されてきた要衝である。
この記事では、マスコミには十分に報道されていない鉱物資源をめぐっての米国と中国の主導権争いについて諸事情を解説する。
米国にとって極めて重要なグリーンランド
グリーンランドは地政学的に戦略的な位置にあるとともに、豊富な鉱物資源の存在の可能性があるため、米国にとって見逃せない存在であることが、第2期政権のトランプ大統領発言で明らかになっってきている。
この姿勢は今に始まった事ではなく第1期トランプ政権時にも2018 年 5 月に、マチス米国防長官が、中国に北極圏での軍事力を広げさせてはいけないと警告。グリーンランドは、中国の国営銀行と建設会社が 2 つの空港を融資・建設するという申し出を拒否している。
グリーンランドの主要な民間空港は各所にあるが、いずれも滑走路が短く十分でなかった。その空港拡張工事に中国系企業が参入しようとしたのである。当初デンマークは負担に消極的であったため、グリーンランドは中国に頼ろうとした。しかし、マチス発言で、デンマークは空港拡張工事への慎重姿勢を一変させたという。
グリーンランドの歴史と独立の動き
グリーンランドには 56,000 人の島民がおり、そのうち89%は先住民であるモンゴロイド系のイヌイット族、他はデンマーク人である。
( グリーンランドのイヌイット族は日本人にとても良く似ている。 )
980年頃からヴァイキングが自在に出没する時代を経て、1261年にグリーンランドの住民はノルウェー王国に忠誠を誓うこととなり、その後1380年にはノルウェーの自治領のままデンマーク王国の支配下に入った。1536年にノルウェーがデンマークの完全な従属下に置かれてから1953 年まで、400年余にわたってグリーンランドはデンマークの植民地となったのである。
1953年にグリーンランドはデンマークの植民地から海外郡に昇格し、デンマーク国会へ代表を送り込めるようになった。デンマーク政府も教育・福祉の充実に力を入れるようになり、そのために町での集住が図られることとなった。町への移住の結果、漁師の失業などが発生し、この失業問題は長くグリーンランドをわずらわせた。
デンマーク本国が欧州共同体への関与を深めていくと、その経済・関税政策は、グリーンランド住民の不満を高めることとなった。グリーンランドは、ヨーロッパではなくアメリカ・カナダとの貿易が多く、経済的利点を有さなかったためである。1973年にデンマークでは、EC加盟への国民投票が行われ、EC加盟を果たしているが、グリーンランドでは反対票が多かった。このため、グリーンランドでは自治権獲得運動が盛んになり、1978年に自治権を獲得して1979年よりそれが発効した。一部の国際関係も自治政府の管轄にあり、1982年にはEC脱退を議決し、1985年に脱退している。また、同年にグリーンランド自治政府は地名をデンマーク語からイヌイット語に変更を行い、グリーンランドの旗の制定も行っている。2009 年にはデンマーク本国と自治協定が結ばれて、鉱物資源の採掘を含むいくつかの新しい分野に対する権限を与えられた。
グリーンランドはデンマークから独立を目指しており、これまでは経済事情もあって強い動きとはなっていなかったが、イヌイット友愛党の元で独立運動は盛んとなって来ている。ほとんどのグリーンランド人が独立を望んでいると言われる。しかし、完全な独立が現実的だと考える人はほとんどいない。グリーンランドはデンマークから毎年数億ドルを補助金(グリーンランド予算の 56%)として提供されるなど、デンマークに大きく財政を依存している。そこで、財政独立のために資金源として注目されているのが鉱物資源なのだ。
グリーンランドの鉱物資源
グリーンランド鉱物資源庁によれば、アバナータ基礎自治体だけで約 20 件の鉱業権が付与されており、その面積は 12,000km²に達する。そのうち7,000km²以上は アングロ・アメリカン社に付与されていることからも、グリーンランドに世界が注目していることが分かる。
ロンドンに本社を置く世界的な鉱物資源大手。レアメタル等の取扱高は世界屈指であり、金の産出量は長らく世界1であった。
グリーンランドは、北大西洋及び北極海に位置する世界最大の島(217 万 km2:日本の6 倍の面積)で、鉄鉱石、銅、亜鉛、レアアース、金などの資源でポテンシャルが確認されている。
特にレアアースに関しては、未開発地域では世界最大規模の 150 万トンの資源量があるとも言われている。世界のレアアース年間消費量30万トンの5年分に相当しており、賦存密度の薄いレアアース資源としては世界的に見て貴重な賦存地域である。
環境保護政党が第1党となり、中国企業のレアアースプロジェクトは中止に
グリーンランドでは、中国の盛和公司(Shenghe Resources HoldingCo. Ltd)が筆頭株主である豪のEnergy Transition Minerals 社が、2007 年から Kvanefjeldレアアースプロジェクトを本格的に始動させており、2020 年時点で同社は事業開始前の最終段階を迎えていた。
しかし、グリーンランドの未開発の金属を開発する権利をめぐる動きが注目される中、2021 年 4 月 に行われたグリーンランド議会選挙の結果は、左翼のイヌイット友愛党が 37%の票を獲得し、与党の進歩党を追い落とした。
この選挙で争点となっていたのが、グリーンランドの経済的な自立に期待のかかる、Kvanefjeld レアアースプロジェクトである。従前より進歩党は、独立を推し進めるにあたっては資源開発地域の雇用創出及び経済効果に期待して鉱業政策を積極的に進めていた。一方、改選前の最大野党であったイヌイット友愛党はプロジェクト周辺地域の環境悪化を懸念しており、ウランゼロポリシーを掲げて支持を伸ばしていた。
2021年4月の選挙で政権を獲得したイヌイット友愛党は、ウラン採掘を禁止する法案を提出。グリーンランド議会は 21 年 11 月、この法案を可決した。これにより Kvanefjeld レアアースプロジェクトの開発は中止となった。新法では、100ppm 以上のウラン濃度を持つ鉱床の探査を禁止しており、同プロジェクトには放射性ウランが含まれているからである。
別のレアアースプロジェクトは米国企業に売却された
グリ-ンランドでレアアース鉱床の調査を実施しているTanbreez 社は昨年、ニューヨークに拠点を置く Critical Metals 社に、現金 500万ドルと同社株 2 億 11 百万ドルの支払いで売却された。関係者によると、これは中国企業が提示した金額よりはるかに少ないという。
Tanbreez プロジェクトの規模は大きいものの、品位や鉱物学的性質は大したものでなく、商業生産に至る可能性は低い。また、 Critical Metals社が現在携わるプロジェクトは、豪州のリチウム鉱山のみのほぼ無名の企業である。
目的は別にあると言われている。Critical Metals社の大株主はトランプ大統領が米国商務長官に指名した ハワード・ルトニック氏が率いる証券会社 Cantor Fitzgerald 社であることから、米国がグリーンランドで、中国の押さえ込みに成功を収めていることを示そうとしているのではないかと言うのである。
中国の鉄鉱石プロジェクトの開発ライセンスは剥奪された
資源が未開発なグリーンランドに触手を伸ばし、北極圏の島で足場を固めようとする中国企業の動きは、Kvanefjeld プロジェクトだけではない。
2013 年にIsua 鉄鉱石プロジェクトの開発ライセンスを取得した London Mining社は、当初、約2,000 人の中国人労働者を雇用してプロジェクトを建設し、年間約 1,500万トンの鉄鉱石を中国に供給するとしていた。中国の石炭・鉄鉱石輸入業者である General Nice 社が 2015 年、London Mining 社に代わってプロジェクトの経営権を取得した。しかし同社は十分な資金を確保できず、グリーンランド政府は活動不十分の理由で2021年11月、中国General Nice社からIsua鉄鉱石鉱床のライセンスを剝奪した。これにより、資源の豊富な北極圏の島で足場を固めようとする中国企業の試みは打撃を受けたのである。
中国のGeneral Nice 社はそのほかに2016 年、グリーンランドにある放棄された海軍基地をデンマークから購入しようとしたが、安全保障上の懸念から拒否されている。
その他の注目される資源開発プロジェクト
Sarfartoq プロジェクト
カナダ NeoPerformance Materials 社は、グリーンランドがプロジェクトのライセンス譲渡を承認することを条件に、Sarfartoq プロジェクトをカナダ Hudson Resources 社から総額 350 万ドルで購入すると発表した。同プロジェクトにはレアアース永久磁石の必須元素であるネオジムおよびプラセオジムが高レベルで含まれているが、高濃度のウランは含まれていない。
DiskoNuussuaq プロジェクト
同プロジェクトはグリーンランド南西海岸に位置し、ニッケル・銅・白金・コバルトなどが含まれる。2021 年、KoBold Metals 社はグリーンランドを拠点とする鉱業会社 Bluejay Mining 社と合弁事業を発表した。この事業は世界最大規模のニッケル鉱山となる可能性があり、ビル・ゲイツ、ジェフ・ベソス、マイケル・ブルームバーグなど、世界有数の富豪たちが支援しているという。
Citronen Fjord プロジェクト
同プロジェクトは、グリーンランド北部の Citronen フィヨルドにある。2%の鉛と 3%の亜鉛を含む鉱石が 1 億トン埋蔵されているとされる。この鉱山は現在、Ironbark Zinc 社よって調査されている。また、ゲルマニウムの含有が確認されており、現在さらなる分析を行っている。同社は中国有色鉱業集団(China Nonferrous Metal Mining)と資金調達と建設について拘束力のない契約を結んでいる。