選挙に「迷いは禁物」です。この鉄則がはずれると、大変なことになります。例えば、、、
当選2回、この選挙の後、つぎの町議会では副議長に推挙されると言われていた現職の中堅議員が、選挙期間中に引きこもりになったのです。いわく「何をしていいか分からない」。
さあ大変です。選対幹事長が、あと数日の日程を候補者に完全密着して行動を促し、何とか危機を突破して当選にこぎつけました。これは実際にあった話です。
それくらい切羽詰まった緊張感が襲ってくるのが選挙です。しかし、作戦の準備があれば憂いなし。この記事では、選挙作戦の「基本中の基本」を伝授しますので、候補者はもとより後援会幹部など支援者の皆さんは、ぜひ参考にしてください。
- 【筆者/やまべみつぐ】について
- 【やまべみつぐ(山辺美嗣)】
通産官僚、国連(ジュネーブ)、独法(ニューヨーク)での勤務を経て、県議に。日本初の地産地消政策や、地方議員としてロシアとの直接交渉などを実現しました。その後、県議会議長に就任。保守三つ巴の熾烈な選挙戦を経験し、他の候補者の選対としても活動しました。現在、政治行政のコンサルタント。議員引退を機に、故郷の雪国から子や孫のいる関東に転居。孫5人。
選挙はわずか数日
告示日の朝から投票前日の夜まで、どんなに数えても選挙運動ができるのは、市議会議員選挙で7日限りです。町村議会では5日、都道府県議会でも9日です。
練りに練られた選挙作戦は、全て「効果がある」ものです。毎日朝から夜までやりつくす。それ以外に選択肢はないものと思いましょう。
選挙作戦には、次の3つの定石があります。
- 候補者の基本日程
- 臨機応変の対応
- スタッフが主体的にする支援行動
この3つをしっかり作戦に盛りこむことが大事です。
では、一つずつ内容を見ていきましょう。
定石その1 「基本日程」
選挙の中心人物は、もちろん候補者本人です。従って、候補者の「基本日程」をしっかり作っておくことが、定石の最初に来ます。
基本日程で大事なのは、出陣式、個人演説会、決起大会、この3つです。
《出陣式》の押さえておきたいポイント
告示日は、朝8時から選挙管理委員会で立候補届をすると、届け出順が決まりますので、早速選挙ポスターを貼るスタッフが動き出します。
選挙事務所の外では、大勢の支援者が集まっており、来賓などから激励を受け、そして候補者が第一声をあげて選挙戦が始まる。これを「出陣式」といって、全国の選挙で殆んどの候補者が行っています。
ところで、出陣式は選挙運動ですので、選挙管理委員会が交付した「七つ道具」が必要です。それで、スタッフが選挙管理委員会から戻ってくる9時〜10時ころからの開催になります。
【選挙の七つ道具】
選挙運動を行うためには、選挙管理委員会が交付する標札、表示板その他の物品が必要とされており、これらの物資は無料です。
内容は、①選挙事務所の標札、②選挙運動用自動車・船舶表示板、③選挙運動用拡声機表示板、④自動車・船舶乗車船用腕章、⑤街頭演説用標旗、⑥街頭演説用腕章及び、⑦個人演説会用立札につける表示板であり、これらを俗に「選挙の七つ道具」と呼んでいます。
さて、出陣式がなぜ選挙作戦の基本中の基本の、最初に来るのでしょうか?
「みんながするから、した方がよさそうだから」では無く、出陣式には4つの目的があります。
3 名の知れた来賓が応援している有力な候補者であることをPRできる
4 支援者が候補者の「思いや公約」を共有して、絶対に勝利する決意をする
これらの目的に沿った効果が発揮できるように、スタッフはしっかりとした演出を準備したいものです。
例えば、2に関連して、日頃から記者と仲良くすることが大切ですし、3であれば、地域の有名人と付き合いをしておく、などの心がけがスタッフには大事です。
《個人演説会》の押さえておきたいポイント
基本日程の2番目は、個人演説会です。
個人演説会は、候補者の考えを伝えることを中心に位置づけ、支援者である知人、友人が応援演説をして聴衆に投票を呼びかけることが目的です。
個人演説会の大事なことは3つ、
2 会場は、室内だけでなく戸外でも設営できること
3 1会場あたりの人数は、少人数であっても、こまめに設営すること
有権者の皆さんの、年齢層や職業などに配慮して、最も来やすい時間帯や会場を決定していくことが大事です。
例えば、支援者の社長さんが朝礼の後に挨拶する機会を許可いただいた時は、「個人演説会」として開催すれば戸別訪問に該当しないので、投票をお願いする選挙運動ができます。
その際候補者は「〇〇社長さんには日頃から私の活動にご理解をいただいており、今日は社員の皆様に私の公約をお話しする、△△会社での個人演説会の貴重な機会となりました。誠にありがとうございます」と話すと、聞いている社員の皆さんも状況を納得されると思います。
その他、支援者が自宅で集会を開く場合や、公民館で集会を開催する許可を取った場合なども、「個人演説会」として開催することができます。(公民館が選挙管理委員会の指定する公営施設であるときは、事前に申し出の手続きが必要です。そうでないときは、公民館の管理者の許可で十分です。)
《決起大会》の押さえておきたいポイント
決起大会は、大きな個人演説会ですが、その目的は2つです。
このためには、できるだけ多くの人に呼びかけて参集してもらうことが大事です。集客は、陣営が電話や口コミのほかに、ネットを活用することが最近の選挙では鉄則のようです。
また、期日前投票の制度が始まってからは、決起大会を選挙戦の前半に開催して、票を囲い込もうという風潮も出てきています。ですから、決起大会を前半と後半の2回開催することも珍しいことでは無くなってきました。
定石その2 「臨機応変」
いろんなことが起きるのが選挙です。良いことも、悪いことも、突然起こります。
そんな時、決して慌てないように前もって事態の想定をして、臨機応変に対処する方針を決めておきましょう。
具体的には、例えばこんな事態です。
有名人は、ぜひ有利に展開するよう対処しましょう。
あらかじめ来訪日程が分かっていれば(また分かっていなくても)、10分ほどの選挙事務所でのイベントとして演出を組み、有権者にも集まってくれるよう声をかけましょう。
その際、応援の来訪者には「候補者の良い所をエピソードを交えて紹介してくれるように」ぜひ前もってお願いしてください。聴衆はそのエピソードを覚えて、候補者の評判を広げてくれるようになります。
そして、候補者はできるだけ選挙事務所に戻ってきて、応援の来訪者に丁寧にお礼を言うような日程を組みましょう。そうすると応援に来た人も当日だけでなく、いろんな箇所で候補者の良い評判を言ってくれることにもなります。
事件の際も、有名人の来訪に劣らず重要です。
住民に不幸が発生したときに、候補者がどうふるまうかで「ひとがら」が現れます。ぜひ時間を作って、お見舞いに駆けつけたいものです。ただし「手ぶら」で行くことが前提です。
政治家は、災害や事件の無い、起きにくい地域を作ることが使命ですので、選挙中であっても現場は必ず自分の目で見る心がけが欲しいと思います。候補者は常に誰かに見られ評価されているものです。
定石その3 「支援行動」
さて、選挙作戦の定石も3番目になりました。
ここまでは、候補者本人が中心となって動く作戦でしたが、最後はスタッフが中心となって主体的に動く、「支援行動」についてお話しします。
選挙運動は、候補者を当選に導くために全ての人ができるものです。ところが、候補者本人だけに活動をさせようとする陣営も決してすくなくありません。
その背景には、選挙がよく分かっていないという、初歩中の初歩のミスを犯していることも無くはないのですが、選挙運動は下手にすると「違反になって捕まる」という警戒心もあるようです。
今からお話しする4つは、「違反にならない」ことであり、効果のあることですから、是非スタッフが支援行動の作戦を立ててほしいと思います。
《4つの支援行動》
1.幅広くできる個々面談
2.地域の事業所、職場への訪問
3.電話作戦、ネット作戦
4.最後のお願い【有権者へのお願いに候補者と歩く】
では一つずつ見ていきましょう。
《個々面談》の押さえておきたいポイント
戸別訪問とよく似た選挙用語として「個々面談」というものがあります。
公職選挙法では戸別訪問と個々面談(個々面接ということもあります)を区別しており、個々面談は自由に行うことができます。
個々面談は、
たまたまその場にいたり、来訪してきた有権者に対して、投票依頼などの選挙運動を行う行為のことです。
例えば、電車やバス、街頭で出会った人などに投票依頼をしたり、商店や病院などでそこの店員や医師などが来客者に対して投票依頼する行為は個々面談と判断され、自由に行うことができます。
こうした偶然の機会を利用するもののほかに、候補者の後援会員や、口頭で応援を約束してくれた方々を、自宅や職場に訪問して、候補者への応援行動をお願いすることも個々面談であり、禁止されている行為ではありません。候補者を応援している人は誰でもできるので、個々面談を作戦に加えることは重要です。
「戸別訪問」は違反になりますが、それは連坦する住宅地や商業地を連続して訪問する、支援者かどうかに関わらず全戸訪問するような迷惑行為なので禁止されています。
しかし、「個々面談」はまったく違うものですので、自由にできるということを理解しましょう。
《事業所訪問》の押さえておきたいポイント
候補者が日頃から支援していただいている会社の社長さんや工場長さん、店長さんなどから、「事業所で挨拶をする丁度良い機会がある」と朝礼の時間や昼食の時間に案内をいただくことがあります。
先ほどの、個人演説会の説明で例示したようにすることもできますし、事業所を訪問した際に「今何人か職員がいるから挨拶されてはどうですか」という時には、個々面談としても行うことができることは直前に書いたところです。
つまり、予約なしの突撃は相手に迷惑であり違反だと訴えられることもあり得ますが、相手方と日時を決めての事業所訪問は問題がありません。
一番の課題は、陣営のスタッフがどれだけの数の事業所と普段から仲良くできているかです。ここで差がつくことになります。
本人の予定がつく時は本人が、本人が都合がつかない時には、家族や選対の役員が代わって訪問して、投票のお願いをすると効果がありますので、作戦として組み込んでください。
《電話作戦とネット作戦》
電話作戦とネット作戦は、候補者本人以外が中心となって進める作戦です。電話では、個人演説会の告知をすることのほか、個人的な知人に電話で候補者への投票を依頼することや、ネットでは街頭演説の様子などを映像付きでアップすることなど、いろんな作戦が立てられます。
これについては、別の記事で詳しく書く予定にしています。
《最後のお願い》
最後のお願いは、選挙運動の最終日やその前日に、候補者が最重点にしている地域の道を、選挙カーによる名前の連呼と共に歩いて行うものです。
大事なことは、スタッフがそれこそ全員集合で一緒に歩いて、これまでの政治活動期間や選挙戦の期間に、声をかけ投票をお願いしてきた有権者にたいして、地声で最後の最後のお願いをするところにあります。
公職選挙法は、大勢が戸外で気勢を上げる示威行為や幟旗を掲げての行列は禁止していますので、そのようにならないような配慮をしながらの実施になります。
大勢の仲間が一生懸命に、候補者と共に選挙を戦っている姿こそ、有権者に訴える一番のポイントであろうかと思いますので、選挙運動のフィナーレの演出として是非とも作戦に入れたいものです。
さて、
選挙作戦の基本中の基本を勉強してきました。これらを参考に、
候補者とスタッフ、知恵を出しきり作戦を十分に練り上げたら、
さあ、選挙中は「迷いなし」
当選に向かってまっしぐらに進んでください。