選挙事務所を設けるときは、場所や広さ、駐車場、机や電話などの設備に目が向きがちです。
しかし、それ以上に大切なのが、選挙事務所として使用できる時期や届出、後援会事務所との違い、家賃や備品代などの経費処理です。
選挙運動には、活動できる期間や方法について、さまざまな規制があります。事務所の使用方法や経費の扱いを誤ると、収支報告上の問題だけでなく、公職選挙法に関わる問題へ発展することもあります。
この記事では、選挙事務所を開設する前に知っておきたい基本的な注意点を取り上げます。
なお、選挙の種類や自治体によって、届出書類や取扱いが異なる場合があります。実際に準備を進めるときは、立候補を予定している選挙の選挙管理委員会に早めに確認してください。
公共政策コンサルタント
◆山辺の3つの視点◆
①国の行政視点:経済産業省(旧通産省)で培った視点
②国際機関の視点:国連勤務経験を生かした視点
③地方の視点:県議会議員時代の現場重視の視点
山辺は県議時代の2000年に、「地産地消政策」を、全国初で実現した。
選挙事務所とは
選挙事務所とは、候補者の選挙運動に関する事務を行うための拠点です。
選挙期間中には、スタッフの連絡や打合せ、選挙運動に使用する物品の管理、来訪者への対応などが行われます。
ただし、建物を借りて看板を掲げれば、いつでも選挙事務所として活動できるわけではありません。
選挙運動ができるのは、立候補の届出が受理されたときから、投票日の前日までです。
立候補届出前に、特定の選挙で特定の候補者を当選させる目的で、投票を得るための働きかけをすると、事前運動と判断されるおそれがあります。
告示前から使用している事務所であっても、そこで行える活動は、選挙期間中と同じではありません。
後援会事務所と選挙事務所の違い
後援会事務所と選挙事務所は、同じ建物を使用することもありますが、活動の目的や法律上の扱いは異なります。
後援会事務所は、後援会などの政治団体が、平常時の政治活動を行うための拠点です。
一方、選挙事務所は、立候補届出後の選挙運動に関する事務を行うために設けられます。
選挙運動とは、特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得るために有権者へ働きかける行為をいいます。
これに対して政治活動は、政策の普及、議会活動の報告、政治団体の運営など、選挙運動に当たらない政治上の活動です。
ただし、表向きは政治活動としていても、その時期、内容、方法などから、実際には特定の選挙に向けた投票依頼だと判断される可能性があります。
「後援会事務所」という名称を使っていれば、告示前でも自由に選挙運動ができるわけではありません。
事務所の名称だけではなく、そこで実際に何が行われているかによって判断されます。
同じ建物を続けて使用する場合
告示前は後援会事務所や政治活動事務所として使用し、告示後は同じ建物を選挙事務所として使うことも考えられます。
この場合は、次の活動を区別しておく必要があります。
・告示前に行う政治活動
・立候補に向けた準備
・立候補届出後に行う選挙運動
活動内容だけでなく、家賃、電話代、設備費、印刷費などの支出についても、何のために生じた費用なのか説明できるようにしておくことが大切です。
単に契約書を期間ごとに分ければよい、というものではありません。
契約内容、使用期間、実際に行った活動、費用の目的が一致していることが重要です。
選挙運動費用を少なく見せるために、実態と異なる契約や会計処理をすることは避けなければなりません。
選挙事務所は必ず設置するのか
候補者が選挙事務所を設置することは一般的ですが、専用の選挙事務所を置かなければ立候補できない、と一律に考える必要はありません。
選挙の規模や選挙運動の方法によっては、専用の事務所を設けないことを検討する場合もあるでしょう。
ただし、選挙運動に関する打合せや事務処理を継続して行っている場所があれば、その使用実態が選挙事務所に当たらないか確認が必要です。
「選挙事務所を設置しない」としながら、別の場所を実質的な選挙事務所として使用することは避けなければなりません。
事務所を設置しない場合を含め、届出の要否や選挙運動の運営方法について、あらかじめ選挙管理委員会へ相談しておくと安心です。
選挙事務所はいつから準備できるのか
選挙事務所として使う物件を探すことや、所有者と相談すること、賃貸借契約を結ぶことなどは、立候補届出前から行う必要があるでしょう。
机や椅子、通信設備などの手配にも時間がかかります。告示日になってから、すべての準備を始めることは現実的ではありません。
ただし、告示前に行えるのは、適法な政治活動や立候補準備です。
事務所の中で投票を依頼したり、選挙運動用の文書を配布したりするなど、立候補届出後でなければできない選挙運動を始めることはできません。
ここで注意したいのは、「告示日の何日前から選挙運動費用になる」と、日数だけで一律に区切れないことです。
告示前に支出した費用であっても、立候補や選挙運動の準備のために必要となったものであれば、選挙運動費用収支報告書に記載する立候補準備の支出に当たる場合があります。
反対に、告示に近い時期の支出であっても、通常の政治活動のための費用であれば、選挙運動費用とは別に扱われることがあります。
判断するときに重要なのは、単に契約日や支払日だけではありません。
何のために契約したのか、いつからどのように使用したのか、その場所でどのような活動をしたのかという実態を踏まえて整理する必要があります。
選挙事務所をどこに設置するか
選挙事務所の場所について、公職選挙法が「人通りの多い場所」や「選挙区の中心地」を求めているわけではありません。
まず確認したいのは、適法かつ安全に使用できる物件かどうかです。
主な確認事項は、次のとおりです。
・所有者から選挙事務所として使う承諾を得られるか
・賃貸借契約や施設の利用規則に反しないか
・看板などを適法に設置できるか
・来訪者や車の出入りで近隣に迷惑をかけないか
・騒音、交通安全、駐車場所などに問題がないか
・必要な事務作業を行える設備があるか
住宅、店舗、事務所、集会施設など、物件の種類によって利用条件は異なります。
また、建物の使用が認められていても、看板については公職選挙法のほか、屋外広告物条例や施設側の規則が関係することがあります。
契約前に、所有者や管理者と使用目的を共有し、必要に応じて選挙管理委員会や自治体の担当窓口へ確認してください。
選挙事務所の数と表示
地方議会議員選挙では、候補者が設置できる選挙事務所は、原則として1か所です。
選挙事務所を表示するためのポスター、立札、看板の類は、事務所ごとに合計3枚以内とされ、大きさにも規格があります。
なお、選挙期間中の選挙事務所に掲示する看板類と、平常時の政治活動用事務所に掲示する証票付きの立札・看板は、別の制度です。
告示前に後援会事務所として使用していた場所を、告示後に選挙事務所として使う場合は、表示の切替えにも注意が必要です。
看板の枚数や大きさだけでなく、掲示できる期間や表示内容についても、立候補予定者説明会で配布される資料を確認しましょう。
選挙事務所の設置届
選挙事務所を設置したときは、選挙管理委員会への届出が必要です。
候補者届出の際に選挙事務所設置届を提出する場合もあれば、設置後に別途提出する場合もあります。
また、選挙事務所を移転したときや廃止したときにも、届出が必要になります。
立候補届出が受理される前に、その場所を選挙事務所として使用し、選挙運動を始めることはできません。
選挙運動ができるのは、立候補届出が受理されたときから投票日の前日までです。
経費処理では目的と実態をそろえる
選挙事務所に関する費用には、家賃、設営費、光熱費、通信費、備品の購入費や借料などがあります。
これらを処理するときは、支払日だけでなく、何のための支出だったのかを明確にします。
告示前に支出した費用であっても、立候補や選挙運動の準備のために必要となったものであれば、選挙運動費用に含まれる場合があります。
一方、通常の後援会活動や政治活動のために支出した費用は、政治団体の会計で処理することが考えられます。
同じ事務所を継続して使用するときは、次の資料を残しておくと、支出の内容を確認しやすくなります。
・賃貸借契約書や使用承諾書
・請求書と領収書
・使用した期間がわかる資料
・備品やサービスの内容がわかる明細
・費用の目的を記録した会計帳簿
期間を形式的に分けるだけでは不十分です。
契約書、実際の使用状況、会計処理の内容が一致していなければ、正確な収支報告とはいえません。
判断が難しい費用は、支払う前に選挙管理委員会へ相談することをおすすめします。
出納責任者が管理する選挙運動の収支
候補者は、選挙運動の収支を管理する出納責任者を選任し、届け出ます。
出納責任者は、選挙運動に関する収入と支出を会計帳簿に記録し、領収書などを整理して、選挙運動費用収支報告書を提出します。
選挙運動の支出には、法定の制限額があります。
制限額は選挙の種類や選挙区によって異なるため、具体的な金額は立候補予定者説明会の資料などで確認しなければなりません。
法定の支出制限額を超えた場合には、出納責任者に罰則が科され、一定の場合には連座制によって候補者の当選が無効になる可能性があります。
ただし、経理上の記載ミスがあれば、すべて直ちに当選無効になるという意味ではありません。
単純な誤記と、虚偽記載、支出制限額の超過、買収などの違反行為は、分けて考える必要があります。
誤りに気づいたときは放置せず、速やかに選挙管理委員会へ相談してください。
収支報告書は選挙後も続く
出納責任者は、選挙運動に関する収入と支出を記載した第1回の収支報告書を、選挙期日から15日以内に提出します。
その後に新たな収入や支出が発生した場合は、その収支が生じた日から7日以内に追加の報告が必要です。
会計帳簿、領収書その他の支出を証明する書類は、報告書を提出した日から3年間保存しなければなりません。
選挙が終わった後に、請求書が届くこともあります。
投票日を過ぎたからといって会計をすぐに閉じるのではなく、未払いの費用や追加の請求がないかを確認し、必要な報告を終えるまで管理を続けます。
まとめ
選挙事務所を準備するときは、場所や設備だけでなく、次の点が重要です。
・後援会事務所と選挙事務所を混同しない
・告示前に選挙運動を始めない
・設置や変更について必要な届出をする
・政治活動費と選挙運動費用を実態に沿って区分する
・契約書、領収書、会計帳簿を残す
・収支を出納責任者に集約する
公職選挙法は複雑であり、選挙の種類や自治体によって、提出書類や取扱いに違いがあります。
インターネット上の一般的な情報だけで判断せず、立候補を予定している選挙の選挙管理委員会から最新の資料を受け取り、早めに確認しながら準備を進めてください。
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