選挙運動には、候補者だけでなく、多くの支援者やスタッフが関わります。
そのなかで迷いやすいのが、選挙運動員への報酬や交通費、弁当などの扱いです。
「手伝ってもらったので、少しくらい謝礼を渡してもよいだろう」
「長時間活動してもらうのだから、食事を用意するのは当然ではないか」
一般的には自然に思えることでも、選挙運動では公職選挙法上の問題が生じる場合があります。
選挙運動に関する支払いは、通常の仕事や地域活動とは考え方が異なります。善意による支払いであっても、内容によっては報酬や利益の提供と判断される可能性があるため、注意が必要です。
この記事では、具体的な金額や運用方法ではなく、候補者や支援者が知っておきたい基本的な考え方をご紹介します。
なお、選挙の種類や実際の業務内容によって扱いが異なるため、個別の判断は必ず管轄の選挙管理委員会に確認してください。
公共政策コンサルタント
◆山辺の3つの視点◆
①国の行政視点:経済産業省(旧通産省)で培った視点
②国際機関の視点:国連勤務経験を生かした視点
③地方の視点:県議会議員時代の現場重視の視点
山辺は県議時代の2000年に、「地産地消政策」を、全国初で実現した。
選挙運動員は無償のボランティアが原則
選挙運動は、候補者の考えや政策に賛同する人が、自発的に参加することを基本としています。
そのため、選挙運動に参加した人へ、働いた時間や成果に応じて自由に報酬を支払えるわけではありません。
選挙運動員は、原則として無償のボランティアです。
選挙事務所の運営を手伝う人、街頭活動に参加する人、知人に候補者を紹介する人など、多くの支援者がこの原則のもとで活動します。
通常のアルバイトであれば、仕事を依頼して賃金を支払うことに問題はありません。しかし、選挙運動では、投票を得るための活動に金銭を支払うと、買収に関わる問題が生じることがあります。
大切なのは、単に「スタッフ」「アルバイト」「事務員」などの名称で判断しないことです。
実際にどのような仕事をしたのか、どのような目的で金銭を支払ったのかによって、法律上の扱いが判断されます。
実費弁償と報酬は別のもの
選挙運動に関する支払いを考えるときは、まず「実費弁償」と「報酬」を分けて考える必要があります。
実費弁償とは、活動のために実際に負担した費用を補うものです。交通費や宿泊費などが、その代表的な例です。
一方、報酬は、仕事や労力の対価として支払われる金銭を指します。
たとえば、移動にかかった交通費を精算することと、活動してもらったお礼として日当を渡すことは、同じ支払いではありません。
ただし、「交通費」「謝礼」「手当」など、どのような名目を付けたかだけで判断されるわけでもありません。
実際に必要となった費用を大きく超える金額を渡せば、実費弁償ではなく、報酬や利益の提供とみられる可能性があります。
反対に、法律上、一定の職種について報酬を支払うことが認められている場合でも、届出や期間、人数などの条件を守らなければなりません。
選挙運動に関する支払いでは、次の点を整理しておくことが重要です。
- 誰に支払うのか
- 何を依頼したのか
- 実際にどのような活動をしたのか
- 何の費用として支払うのか
- 届出や記録が必要か
「少額だから大丈夫」「実費という名前にすればよい」といった判断は避けましょう。
弁当や茶菓にもルールがある
選挙運動では、飲食物の提供も原則として制限されています。
これは、食事や酒などを提供して支持や投票を求める行為を防ぎ、選挙の公正を守るためです。
ただし、選挙運動員への弁当や、湯茶に伴う通常程度の菓子など、一定の範囲で例外が認められているものもあります。
ここで注意したいのは、選挙事務所にいる人であれば、誰にでも自由に食事を提供できるわけではないという点です。
候補者を訪ねてきた有権者、応援に立ち寄った人、選挙運動に従事している人では、それぞれ立場が異なります。
また、弁当については、金額だけでなく、提供できる対象者や数量などにも制限があります。
茶菓についても、「常識的な範囲なら何でもよい」ということではありません。高価な菓子や豪華な飲食物を提供すれば、通常の接待や利益の提供とみられるおそれがあります。
選挙事務所で食事や飲み物を用意するときは、善意だけで判断せず、誰に何を提供するのかをあらかじめ整理しておくことが大切です。
報酬を支払える人は限られている
選挙運動員は無償が原則ですが、すべての支払いが禁止されているわけではありません。
法律上、一定の職種については、例外的に報酬を支払うことが認められています。
代表的なものとして、選挙運動に関する事務を担当する人、選挙運動用自動車で活動する人、手話通訳や要約筆記を担当する人などがあります。
また、物品の運搬や会場の設営、清掃など、選挙運動そのものとは区別される作業について、労務の対価を支払える場合もあります。
ただし、報酬を支払えるかどうかは、本人の肩書ではなく、実際に行った仕事の内容によって判断されます。
たとえば、単純な作業を依頼していた人が、その時間中に有権者へ投票を呼びかければ、当初の契約とは異なる問題が生じる可能性があります。
また、「事務員として雇ったのだから、どのような仕事を頼んでもよい」というわけでもありません。
報酬を受け取る人の職種、業務内容、人数、活動期間などには、それぞれ条件があります。事前の届出が必要になる場合もあるため、活動を始めたあとで形式だけを整えることは避けなければなりません。
特に注意したい三つの点
無償の選挙運動と有償の仕事を混同しない
同じ選挙事務所で活動していても、無償の選挙運動員と、報酬を受けて特定の業務を行う人とでは、法律上の立場が異なります。
誰が、どの立場で、何を担当しているのかを明確にしておくことが大切です。
忙しいからといって、その場の判断で業務を入れ替えたり、報酬の対象となる仕事を広げたりすると、思わぬ問題につながります。
名目ではなく実態で判断される
「謝礼」「交通費」「手伝い代」など、支払いの名称を変えても、実際には選挙運動の対価であれば、報酬と判断される可能性があります。
反対に、正当に認められる実費であっても、記録が残っていなければ、あとから説明することが難しくなります。
誰に、いつ、何のために、いくら支払ったのかを整理し、領収書や記録を残しておくことが重要です。
慣例や過去の経験だけで判断しない
「前回も同じ方法で行った」「ほかの陣営もやっている」といった理由だけで、安全だと判断することはできません。
選挙の種類や自治体によって、確認すべき届出や運用が異なることがあります。法改正や解釈の変更によって、以前と同じ対応ができない場合もあります。
選挙実務では、一般的な説明だけでは判断しにくい場面が少なくありません。
少しでも迷うことがあれば、支払いをする前に確認することが大切です。
選挙管理委員会へ確認するときのポイント
選挙運動員への報酬や実費弁償については、管轄の選挙管理委員会に確認するのが基本です。
相談するときは、「報酬を払ってもよいですか」とだけ尋ねるのではなく、次の内容を具体的に伝えましょう。
- 誰に依頼するのか
- どのような仕事を依頼するのか
- いつからいつまで活動するのか
- どのような名目で支払うのか
- 金額や支払い方法はどうするのか
具体的に説明することで、より正確な回答を得やすくなります。
できれば口頭で確認するだけでなく、候補者向けの手引や届出書類も確認し、選挙対策の責任者や出納責任者と情報を共有しておきましょう。
まとめ
選挙運動員は、無償のボランティアが原則です。
一方で、交通費などの実費弁償や、法律で認められた一部の職種への報酬など、例外的に支払いができる場合もあります。
ただし、弁当や茶菓、報酬、交通費には、それぞれ異なるルールがあります。
さらに、職種名や支払いの名目だけではなく、実際にどのような活動をしたのかが重視されます。
選挙運動では、善意や慣例による判断が、結果として違反につながることもあります。
「この程度なら大丈夫だろう」と考えず、誰に何を依頼し、どのような支払いをするのかを事前に整理してください。
選挙の種類や地域によって扱いが異なるため、最終的には管轄の選挙管理委員会に確認し、ルールを守って選挙運動を進めることが大切です。
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