選挙にはいろんな規制があるので、違反して処罰を受けないようにしたいものです。では、何に気を付けるのでしょうか。選挙事務所はいつから設置の準備をしていいのか、政治活動拠点としての使用と選挙期間では区別がいるのかなどの点はどうでしょうか。選挙事務所の設置場所や広さ、機材の整えなど物理的な面ばかりでなく、もっと大切なことがこの記事でわかります。
選挙の経理処理を間違うと選挙違反になる
「当選無効」になる選挙の経理処理とは
選挙運動費用の支出が一定の制限額を超えると出納責任者に罰則が適用され、その刑が確定すれば、候補者が当選していたとしても、連座制によって当選は無効となります。
「法定選挙費用」と通称されるこの制限額は、公職選挙法において「選挙運動に関する費用の支出について超えることができない」と定めている金額をさします。
法定選挙費用はいくら? 制限額は、公職選挙法の定める計算方法に基づいて算出します。都道府県議会議員の選挙では、選挙区内の議員の定数で有権者数を割った数(定数1人当たり有権者数)に、人数割額83円を乗じて得た額と、固定額390万円とを合算した額となっています。例えば、定数1人当たり有権者数が2万人の選挙区の場合、2万人x83円+390万円=556万円 が制限額です。市区議会議員と町村議会議員の選挙では、人数割額と固定額が自治体ごとに異なります。
出納責任者が超重要である理由
選挙告示日には、選挙管理委員会に、候補者届出書など本人関係書類のほか、出納責任者選任届と選挙事務所設置届を提出します。それほど出納責任者が重要なのは、選挙運動に関する収入及び支出については全て出納責任者が行うことが、法律で決まっているからです。
出納責任者は選挙運動に関する一切の収支に責任を持つので、告示前の収入と支出から始まり、選挙中の収入と支出、選挙後の収入と支出も含めて、最終的に選挙運動費用収支報告書を選挙管理委員会に提出し終わるまで、その業務が続きます。
そして先ほど述べたように、出納責任者は「支出が法定の制限額を超えないこと」に最大の注意を払います。これが守られなければ、罰則だけでなく、当選が取り消されることもありますので、
出納責任者は候補者の政治生命をあずかる超重要な選挙役員であるといえます。
ではさっそく選挙事務所を設置するための、重要ポイントについてを分析していきましょう。
どこに選挙事務所を設置するか
公職選挙法では、地方議会議員選挙で設置できる選挙事務所の数は、1か所だけです。
そして、選挙事務所には、3.5m x 1mという大きな選挙事務所看板を3枚設置することができます。(設置はタテヨコ自由です)
選挙では地縁が大きな票になるので
選挙事務所は候補者の住んでいる町内など、地盤としている地域のできるだけ中心地に設置して、立ち寄りやすくすることが原則です。
その際、場所を選ぶ視点は、次の3つです。
- 通行する人や車から、選挙事務所看板が見える、目立つところにあるか
- 敷地内や近所に駐車場が確保できるか
- 事務作業、スタッフ打ち合わせや集会のための、室内空間があるか
先ず1番目「目立つ」ことですが
人と車の通行が多い本通りに面していれば最善です。しかし仮に車道から中に入り込んでいても(お寺を選挙事務所に借りる場合には、参道の奥に建っていることが多い)、車道に面した歩道の入り口に当たる場所に、選挙事務所看板を目立つように設置できれば大丈夫です。なを、看板のサイズ規制は最大値なので、その場の状況に合わせて、規制サイズ以下で発注するとよいでしょう。
次に2番目「駐車場」については
選挙事務所の敷地内に駐車スペースが確保できれば最善ですが、そうでなくても、遠くない場所に支援者の空地などを確保して、選挙カーの乗り降りや、来客駐車場として使えるようにしましょう。
最後に3番目「室内空間」ですが
町内にある空き店舗や、空き事務所、お寺さんなど、ある程度の室内空間がある物件を探しましょう。適当な物件が無い場合には、お金をかけてでも、空地を借りてプレハブを設置することも覚悟しましょう。広さがあればあるほど良いですが、無ければ無いで、個人演説会の設営道具などは、他の場所を収納庫に使うことで用は足ります。
なぜかというと、地方議会議員選挙は、激戦になることを想定したほうがよいからです。選挙前から選挙戦最終日まで、早朝から深夜まで毎日自宅にスタッフが出入りして打ち合わせが続くことになります。そうすると、睡眠が十分とれず疲労した候補者と家族の姿から、勝利の女神が遠のいていきます。
いつから選挙事務所を設置するか
さて、候補者とスタッフで、足を運び十分に調べて選挙事務所の場所が決まったら、いよいよ出納責任者の出番です。いつからどのような賃借契約を結べばよいのかなど、判断しなければならないことが沢山あります。
告示6日前からの選挙事務所費用は、選挙運動の支出
全国各地の選挙管理委員会が示している「選挙運動費用収支報告書の書き方」によれば、選挙事務所の借料や設置費用、備品等の準備費用は、告示の5、6日前からの費用が立候補準備費として例示されているケースが主流です。
特に選挙事務所は、告示日には設置届をしなくてはならないので、必ず何日か前に設置することになります。立候補準備費として、一般的には告示前6日間までの費用を計上してください。私が調べたところでは全国で1例だけ、選挙管理委員会が告示前1か月の事務所借料を立候補準備費として示しているケースがありました。この例はかなり珍しいものなので、見習う必要はありません。
その他の立候補準備費も、告示6日前から、選挙運動の支出に
選挙が始まる前に準備しなくてはならないのは、選挙ポスター、選挙ビラ、選挙はがきなどの作成外注、選挙事務所看板の製作外注、コピー機・机イスなどのレンタル契約、臨時電話の設置契約、照明やコンセントの配線工事、簡易トイレのレンタル契約など、かなりの業務になります。
これらの支払いについては、選挙管理委員会の示す多くの例では告示の6日前からの分が、立候補準備費として計上することになります。契約や発注は、当然それより前にすることになりますので、出納責任者は選挙に向けて、綿密な日程表を作って進行管理をすることが重要です。
なお、選挙運動は投票日の前日までですから、投票日以降は選挙運動費用として計上しません。賃借契約やレンタル契約などは投票日前日で一旦終了するような契約にすることが重要です。残務整理のためにその後数日間事務所を使う場合は、その期間の費用を別の契約として締結して選挙費用の収支からは外してください。
注意点① 政治活動と選挙活動との費用の区分け
例えば、告示前2か月間に後援会活動など政治活動を重点的に行い、候補者の基礎票を増やして当選ラインを目指す戦略であるとします。
その際、支援するスタッフが集まる事務所を設営して政治活動を行い、その事務所を選挙告示後もそのまま選挙事務所に使うことを考えたとき、事務所の賃借契約などはどのようにするのでしょうか。
ズバリ結論は、
契約期間を「政治活動期間、立候補準備期間、選挙運動期間」に分けて書類を整えることです。
費用の支払いや諸契約を、
- スタート時点(この場合は2か月前)から、告示6日前までの政治活動期間
- 告示6日前から告示日前日までの立候補準備期間
- 告示日から投票日前日までの選挙運動期間
の3つに分けてください。
このうち、政治活動期間の費用は選挙運動費用に含めません。立候補準備期間と選挙運動期間に発生した費用を選挙運動費用とします。
選挙事務所の賃貸契約期間を、1か月まで立候補準備費とする例を示す選挙管理委員会も全国で1例ありますが、立候補準備費をできるだけ少なくして、法定の選挙費用の制限額以内にすべての費用を収めたいと出納責任者としては考えるわけです。そこで、
立候補準備費は告示前6日間以内の費用に絞ることを、私はお薦めしています。
一方、収入の方は、制限額がありませんので、どの時期に発生したかにかかわりなく、寄付金、政党からの公認料、自己資金などを選挙運動のための収入として計上できます。
このようにして、出納責任者は立候補準備費を把握して、選挙運動費用収支報告書への記載内容を管理することができるようになります。
注意点② 政治活動事務所はどのように表示するか
選挙告示日前日までの政治活動は、その成果が選挙の勝敗を分けることになりますから、選挙区内に6枚設置できる後援会立て看板と、同じく6枚設置できる個人の立て看板、
合計12枚の立て看板(注)をフルに活用して、知名度を上げるとともに、政治活動事務所、あるいは後援会事務所にできるだけ多くの人が来訪していただけると、選挙に向けて機運を盛り上げることが期待できます。
そのため選挙告示前の事務所には、候補者が後援会を持っているならば、後援会立て看板を移動して2枚まで事務所入り口に掲示して、目立つようにすることができます。なお、後援会は、代表者と会計責任者の2人の届出で設立することができますので、会員数が多い必要はありません。
後援会を持っていない場合でも、現職も新人も共に個人の立て看板を移動して2枚まで事務所入り口に掲示できます。
都道府県議会議員と市区議会議員の場合は6枚。町村議会議員の場合は4枚。後援会の申請、あるいは、個人の申請により選挙管理委員会が看板に張り付ける証票を交付します。看板の大きさは、150㎝X40㎝以内と決まっています。新人の候補者であっても、出馬の決意をしたならできるだけ早く、立て看板の設置申請を選挙管理委員会にすることをお勧めします。
注意点③ 投票日以降の収入と支払いも、選挙運動収支報告書を出す
選挙運動費用収支報告書は、投票日から15日以内に選挙管理委員会に提出しなければなりません。その後に発生した収入と支出については、発生したつど7日以内に第2回、第3回というふうに報告書を提出して、出納責任者は業務を終えることになります。
選挙運動費用で、請求書が何日か経過して届くものには、臨時電話の料金、インターネット契約の料金などのほか、告示前に注文した選挙ビラや選挙ハガキの印刷費が、遅れて請求されてきたりもしますので、その場合には追加して報告することになります。
なお、収入と支出について報告書に記載する日は、実際に入金した日と実際に支払った日とすることが原則ですが、収入のうち寄付金については約束のあった日とすることもできることになっています。