この記事では、選挙運動従事者、いわゆる「選挙運動員」の皆さんへの「食事、弁当、茶菓子などの実費弁償」と「報酬の支払い」について取り上げます。
頑張ってくださっている「選挙運動員」の皆さんが選挙違反に問われることが無いよう、ご参考になれば幸いです。
この記事は、支援者と候補者の方が対象です
- 【筆者/やまべみつぐ】について
- 【やまべみつぐ(山辺美嗣)】
通産官僚、国連(ジュネーブ)、独法(ニューヨーク)での勤務を経て、県議に。日本初の地産地消政策や、地方議員としてロシアとの直接交渉などを実現しました。その後、県議会議長に就任。保守三つ巴の熾烈な選挙戦を経験し、他の候補者の選対としても活動しました。現在、政治行政のコンサルタント。議員引退を機に、故郷の雪国から子や孫のいる関東に転居。孫5人。
選挙運動員は「無償のボランティア」が原則
公職選挙法は、選挙運動についてのルールをまとめている基本法です。
275条からなる法律には、全条文を貫いている原則があります。
(参照:大分県豊後大野市選挙管理委員会)
私の作った次の図を見ていただきたいと思います。
候補者本人が選挙運動の中心となり、おおぜいの選挙運動従事者が選対役員やスタッフとして参加して、候補者を支えていただきますが、多くの人々は「無償のボランティア」です。(黄色のまるで表示)
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黄色 = その他の選挙運動従事者、候補者
水色 = 運転手
ピンク色 = 車上運動員、手話通訳者、要約筆記者、事務員、労務者
黄色以外の、水色やピンクの〇で囲んだ、一部の選挙運動従事者に対しては、法律により例外的に報酬を支払うことができます。
違反しないために、ご参考になれば幸いです。
「食事、弁当、茶菓子などの実費弁償」の説明から始めて、次に「報酬の支払い」を説明しましょう。
食事、弁当、茶菓子などの実費弁償のルール
選挙運動従事者に、実費弁償として支払いできる費目はつぎの通りです。
宿泊料(食事料2食分を含む)、弁当料、茶菓料
その他の費目については、次のように最高額が決められています。
弁当料:1食につき1,000円、1日につき3,000円
茶菓料:1日につき500円
選挙運動期間中、選挙運動従事者に対して提供することができる弁当の食数は、45食 X 7日 = 315食 までです。
(参照:青森県むつ市選挙管理委員会)
飲食物提供は、買収に当たらないのか?
選挙運動従事者の実費弁償に含まれる、食事料、弁当料、茶菓料の支払いは、買収に当たりません。
もちろん、公職選挙法では「飲食物」の提供を禁止しています。
「 何人も、選挙運動に関し、いかなる名義をもつてするを問わず、飲食物(湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子を除く。) を提供することができない。」
この原則禁止の例外として、選挙運動従事者への食事の提供は、先に示したように「宿泊料に含まれる2食分」に限定されて許されています。
つまり、選挙運動のために宿泊した際に提供された夕食と朝食については、最高額までを宿泊費として認め、例外的に違反ではないとしています。
また弁当についても、単価を制限したうえ、食数も限定して選挙運動従事者に限ることで、例外的に違反ではないとしています。
では、飲食物のうち、「茶菓料」として500円の最高額が規定されていることについてはどのように判断されるのでしょうか。
法律はそもそも(湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子)は、選挙運動に関して提供してもよいとしているので、選挙運動従事者への茶菓料の最高額500円は、(通常用いられる程度)の一つの目安にすることができます。
報酬についてのルール
選挙運動従事者「選挙運動員」に対する報酬のルールは、業務の種類ごとにたいへん複雑なルールになっています。
その第1は、選挙カーの運転手の報酬は、公費負担の対象とされており、候補者が契約した運転手に、選挙管理委員会から報酬が支払われることです。
候補者が報酬を支払ってはいけません。もし候補者が、公費のほかに運転手に報酬を支払った場合には、買収罪に問われて当選が無効になる危険性があります。
選挙カー運転手の手続きについて、詳しく解説した別記事を、この記事の末尾にリンクを付けましたので、参考にしていただければ幸いです。
その第2は、選挙運動従事者のうち報酬を支払うことができる対象者を、「労務者」と「事務員等」に区分していることです。
選挙運動従事者は原則として、無報酬のボランティアです。無報酬の人々が選挙対策の役員や幹部スタッフをつとめており、いわば上層部なのです。こうした上層部の指示によって働く労務者と事務員等だけが、報酬支払の対象者となっています。
労務者についてのルール
「選挙運動に使用する労務者」についてのルールを一覧に示します。
事 項 | 摘 要 | 備 考 |
業務内容 | 単純な機械的作業 | 選挙事務所での文書発送、選挙ビラのシール張り、葉書の宛名書き、茶湯の接待、清掃、ポスター貼り、個人演説会場の設営・撤収、物品の運搬等 |
報酬最高額 | 1日当たり 10,000円 | ①弁当(1000円以内)を提供したときは、報酬から差し引く ②日当の5割以内で超過勤務手当を支給できる |
雇用人数 | 制限なし | |
届出等 | 届け出不要 | 選挙運動費用収支報告書に「金額、住所、氏名」を記載して報告する必要がある |
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この後に、よくあるご質問を、Q&Aでご紹介します。
ビラ配りは、「どうぞ」と言って手渡す程度であれば、単純な作業であり労務者として認められます。
しかし、「〇〇さんにぜひ投票してください」というふうに呼びかけて手渡すと、選挙違反の怖れが生じてきます。その点を十分注意しましょう。
選挙運動ができるのは、基本的に無償のボランティアです。
有償の者で選挙運動ができるのは、車上運動員など法律で規定された例外であり、人数も制限されています。したって、有償の労務者が選挙運動をすると、「みなし運動員」とされて「運動員買収」という選挙違反に問われます。
事務員等についてのルール
選挙運動従事者のうち報酬を支払うことができる事務員等の専門技能者を一覧にします。
職 種 | 1日当たり報酬 最高額 |
摘 要 |
事 務 員 | 10,000円 | 事務の業務に従事する者 |
車上運動員 | 15,000円 | 選挙カーでの運動に従事する者(=ウグイス。性別は問わない) |
手話通訳者 | 15,000円 | 障碍者の利便のために従事する者 |
要約筆記者 | 15,000円 | 障碍者の利便のために従事する者 |
(注)いずれの報酬についても、超過勤務手当を支払うことは出来ません。
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(市議会議員選挙の場合※)
報酬を支給しうる事務員等の使用期間及び人数についてはつぎの通りです。
① 事務員、車上運動員、手話通訳者、要約筆記者に報酬を支給できるのは、立候補の 届出後、報酬の支給ができる者の届出書を、文書で選挙管理委員会に届 け出たときから選挙期日の前日までの間です。
②1日につき9人以内。ただし、選挙運動期間を通じて延63人(9人× 7日)使用することができ、45人を越えない範囲で異なる者を届け出ること ができます。
(参照:青森県むつ市選挙管理委員会)
電話での投票依頼のために事務員を雇用することはできません。
事務員は選挙運動に従事しますが、その業務は「選挙管理委員会に提出する書類の作成や、選挙資金の帳簿管理」など、専門技能を用いる事務です。
電話での投票依頼を業務内容とする雇用は、事務員の雇用とは認められません。
有償の選挙運動員は、市議会議員選挙の場合、1日に9人以内、選挙期間ではのべ63人以内です。(少し前に説明の箇所があります)
一方、無償のボランティアの運動員の人数には、全く制限がありません。大勢のボランティアが選挙運動をすることは、好ましいことなのです。
ただし、街頭での選挙運動に限り、候補者と運転手のほかに、運動員(有償と無償をあわせた)総数は15名までと制限されます。路上の混乱を回避して交通安全を確保するためです。
なお、事務員への報酬支払いに関して、次のような規制もありますので、候補者と選対の幹部の方は注意してください。
「選挙運動のために使用する事務員」として含まれない者について
事務員は、選挙運動に関する事務に従事する者として使用するために雇い入れた者をいいます。このことから総括主宰者、出納責任者及び親族等、特別信頼関係から選挙運動に従事する者は含まれません。
(参照:埼玉県熊谷市選挙管理委員会)
違反を出さず、勝利をつかみましょう!
実費弁償と報酬について、説明をしてきました。
実費弁償に関して、制限があるのは「上限単価」と「弁当の食数」です。
報酬に関しては、「報酬の単価」と「事務員等について、支払いを受ける人数」に制限があります。
これら以外の費用「交通費、宿泊費、労務者報酬など」について、個別に金額の制限が無いのですが、どれだけでも支払ってよいのではありません。
出納責任者は選挙資金が総額規制の中に納まるよう大変苦労をされています。なぜなら選挙運動資金の総額が制限額を超えると、違反の対象となるからです。
支払いを適切に行うことは、選挙対策上の大切な観点です。
関係者は一致団結して選挙法規を守って、違反を出さないようにして、勝利をつかんでいただきたいと思います。
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